東電事業計画 再稼働と値上げをどうする

朝日新聞 2012年04月28日

東電事業計画 そもそも無理がある

国から出資を受けるため、東京電力の新たな事業計画が経済産業相に提出された。

一時国有化のもとでリストラを急ぎ、14年3月期の黒字回復を目指すという。

ただ、今年7月からの家庭向け料金の10%値上げと、新潟県・柏崎刈羽原発を来年度から動かすことが前提だ。

非現実的で、無理がある計画と言わざるをえない。

確かに供給力を確保するうえで、当面は火力発電の比率を上げるのは避けられない。増えた燃料費分の値上げはある程度やむをえないだろう。

だが、それもぎりぎりまで合理化努力をしてからの話だ。

大口顧客に対する強引な料金値上げのやり方を見て、消費者の東電不信は募っている。ほかの電力を選ぶこともできない。新しい態勢になったからといって、値上げへの理解を得るのは相当にむずかしい。

さらに問題なのは、柏崎刈羽の再稼働だ。

東電は福島原発事故の当事者である。発生後の対応のひどさは記憶に新しい。ストレステスト(耐性評価)の報告書でも、柏崎刈羽は239カ所と他社に比べケタ違いに多い誤記が見つかった。東電の原発管理能力に疑問が突きつけられている。

それなのに、今のうちから再稼働を盛り込むのは、勘違いもはなはだしい。

こうした無理な前提を置いてまで黒字計画を立てざるをえないのは、支援した資金をいずれ返済させるという政府の方針では、東電をなんとか生き永らえさせる形が必要だからだ。

しかし、巨額の賠償や除染、廃炉などの費用負担を考えれば限界は明らかだ。結局は電気料金か税金かで国民が負担せざるをえない。

目先の財政負担を避けようと問題を先送りすれば、かえって最終的な負担が増えかねない。東電の改革も進まない。

私たちは、東電を国有化し、政府主導で被災者への賠償を急ぐ一方、原点に戻って、東電の実質的な破綻(はたん)処理に踏み込むべきだと主張してきた。

野田政権は、東電温存という弥縫(びほう)策を早く放棄し、事故の後始末における国の役割を明確にしたうえで、国民負担をできるだけ小さくする新たな枠組みをつくらなければならない。

国会の役割も見逃せない。昨夏、今の支援策のもとになる法案を審議するなかで、国の責任を明確化する修正をした。

民主党も、自民党も原発を推進してきた責任を、今こそ果たすべきだ。

読売新聞 2012年04月28日

東電事業計画 再稼働と値上げをどうする

東京電力の国有化で、政府は原子力発電所の再稼働などに一段と重い責任を負うことになる。

東電と政府の原子力損害賠償支援機構が27日、東電の再建を目指す「総合特別事業計画」をまとめ、枝野経済産業相に提出した。5月上旬にも経産相が認定する見通しという。

東電が支援機構を通じて1兆円の公的資金注入を受けるための計画だ。東電は経営改革を加速する必要がある。

計画のポイントは、東電株の議決権の過半数を政府が握り、実質国有化することだ。経営陣も大幅に刷新し、新会長に支援機構の下河辺和彦・運営委員長が就く。

政府は東電の筆頭株主として、福島第一原発の事故収束や損害賠償などに、主体的に取り組まなければならない。

計画が、10年間の経費削減額を従来の2・6兆円から3兆円超に上積みした点は評価できる。さらに不断の努力を続けてほしい。

家庭向けの電気料金値上げや、新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働で収益を改善し、2013年度に黒字化する目標も掲げている。

だが、こちらは実現へのハードルが高い。

大口料金値上げを巡る東電の不手際が、強い批判を浴びており、値上げに理解を得るのは容易でない。原発再稼働に向け、安全性への不信感払拭も求められる。

東電が値上げや再稼働への理解を真摯(しんし)に求めるのは当然だが、政府も東電任せにせず、説得の先頭に立たねばならない。

値上げの認可も、再稼働の妥当性の判断も、決めるのは東電を所有する政府自身になるからだ。

事業計画に社内カンパニー制導入を盛り込んだ点も注目される。「火力発電」「送配電」などに分けて独立性をもたせ、コスト意識を高める狙いはいい。

ただし、東電改革を突破口に、なし崩しで発送電分離などを進めるのは問題だろう。電力制度改革は、中長期的な課題として慎重に議論すべきだ。

福島第一原発の廃炉や除染などで、今後さらに数兆円単位の費用が発生する懸念もある。現行の支援制度は、政府が支払いを立て替えるだけで、東電は長年にわたり債務返済を続けることになる。

東電の将来展望が見えないと、人材の流出や設備投資の抑制で、肝心の事故収束、損害賠償、電力安定供給に支障が出かねない。

民間企業の担える範囲を超えてコストが膨らむようなら、政府も応分の負担をするべきだ。

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