貨物検査法案 海自の活用を排除するな

毎日新聞 2009年11月02日

貨物検査特措法 歩み寄り早期成立図れ

政府は、北朝鮮に出入りする船舶の貨物検査を可能とするための特別措置法案を閣議決定し、国会に提出した。5月に2度目の核実験を行った北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議を受けたものだ。

法案は、麻生前政権が7月に国会提出した法案(衆院解散で廃案)から自衛隊が関与する部分を削除し、海上保安庁と税関が検査の主体となることを明確にしたのが最大の特徴である。自衛隊の活用に慎重な社民党に配慮した結果だろう。

戦時の臨検とは違って警察活動である船舶貨物検査は、あくまで海保と税関が検査の主体となるべきであり、今回の政府案は妥当である。

一方、自民党などは麻生政権時代と同じ内容の法案を国会提出している。検査の主体を海保と税関に限定しつつ、海保で対応が不可能であるなど「特別な事情がある場合」は自衛隊を活用すると明記している。海上警備行動によって海上自衛隊が出動し、海保を支援したり、船舶を追尾することを想定したものだ。

海警行動は現行の自衛隊法に基づく措置であり、麻生政権は海自の検査は法的に不可能であるとの見解だった。とすれば、自民党案でも、これによって新たに加えられる自衛隊の活動はないわけで、実態上は政府案と自民党案に大きな差はない。

北朝鮮船舶が重武装している場合など「特別な事情」で、現行法により海自を活用することは政府の判断である。新法にあえて盛り込む必要はあるまい。鳩山政権がその可能性を排除しないなら自民党は歩み寄れるはずだ。安全保障にかかわる法案は与野党が合意して成立を図るのが望ましい。迅速な議論を期待する。

武器などの禁止品目を積んだ北朝鮮船舶は、日本近海でなく中国と朝鮮半島の間の黄海を航行する可能性が高い。船舶を追尾する場合はどの海域を想定しているのだろうか。国会審議では、海保の公海上の活動領域についても、政府の見解を明らかにしてもらいたい。

国連安保理決議は、大量破壊兵器をはじめとする武器・関連部品などの北朝鮮への輸出入を禁止し、貨物検査の実施を各国に求める内容だった。公海上の検査は、禁輸物資積載を疑う「合理的な根拠」と「船舶が所属する旗国の合意」を条件としている。

「核の拡散」防止は日本にとっても重大なテーマであり、決議は日本が米国とともに推進した経緯がある。現行の国内法では決議に盛られた活動ができないなら、新法制定を図るのが当然だろう。

決議を履行する法整備自体には、ほとんどの政党が前向きである。与野党に、政局的な対応を排し、法案の速やかな成立を図るよう求める。

読売新聞 2009年11月01日

貨物検査法案 海自の活用を排除するな

国連の北朝鮮制裁決議を着実に履行するため、今度こそ、成立させねばなるまい。

政府が、貨物検査特別措置法案を国会に提出した。麻生前内閣が先の通常国会に提出した同内容の法案は、審議未了で廃案となっている。

北朝鮮の核実験を受けて、国連安全保障理事会は6月、決議1874を採択した。決議は、武器や大量破壊兵器関連物資を輸送している疑いのある北朝鮮関連船舶・飛行機の貨物検査などを全加盟国に求めている。

決議に基づき、アラブ首長国連邦や韓国は、北朝鮮関連船舶から武器などを押収した。こうした国際社会の努力が、北朝鮮の資金源である武器輸出などに対する重要な抑止力となっている。

しかし、日本には、決議を履行するための根拠法がない。海上保安庁は、公海上はもとより、日本領海内であっても、積み荷の最終行き先が第三国の場合、検査の要請さえできない。

制裁決議の実効性を高めるため、日本も国際協調行動の一翼を担う責任がある。政府は、野党の自民党の協力も求め、法案の早期成立に全力を挙げるべきだ。

北朝鮮は今、6か国協議への復帰を示唆し、対決から対話路線に軸足を移しつつある。政府・与党内の一部には、この時期の法案提出に慎重論もあった。

だが、北朝鮮と協議することと制裁決議を履行することは、何ら矛盾しない。北朝鮮の過去の身勝手な交渉姿勢を見れば、北朝鮮が核放棄に向けて相当な譲歩をしない限り、関係国が圧力をかけ続けることが必要だろう。

法案は、前内閣提出の法案と比べると、海上警備行動など自衛隊の関与を定める条項が削除されている。自衛隊の活用に慎重な社民党に配慮したものだ。

政府は、必要があれば、自衛隊法を根拠に海自を出動させることは可能であり、運用上の問題は生じない、と説明している。

しかし、海自活用の選択肢を排除するかのような対応は疑問である。これにより、非常時に海自を出動させる際の政府の判断に影響が出かねない。

北朝鮮関連船舶が貨物検査に抵抗し、発砲する可能性もある。相手が重装備の場合、海保だけで対処できるだろうか。

より困難な事態も想定し、備えておくのが安全保障の要諦(ようてい)だ。

海自と海保が常に、必要な情報を共有し、緊密に協力する態勢を築くことが大切である。

産経新聞 2009年11月02日

貨物検査法案 自衛隊の活用を再考せよ

政府は北朝鮮関係船舶に対する貨物検査特別措置法案を国会に提出したが、前政権下の法案にはあった自衛隊の活動を定める条項は削除された。海上保安庁が活動の主体であることを鮮明にするためで、自衛隊の活動拡大に反対する社民党への配慮が背景にある。

貨物検査は、核実験を強行した北朝鮮に対し、国連安全保障理事会が6月に全会一致で採択した制裁決議に基づく措置で、すべての国連加盟国に対し取り組むよう求めている。

核・ミサイル関連物資の移送を国際社会が結束して阻止しようとする活動であり、海保を支援する自衛隊の存在は極めて重要といえる。連立政権内部の都合が優先された結果、自衛隊が除外されたのだとすれば残念だ。

自民党も対案を提出しており、ここには自衛隊の活動が盛り込まれている。政府は検査の実効性を高める上でも、野党との法案修正協議に真摯(しんし)に取り組むべきだ。

解散で廃案となったものの麻生内閣が提出した法案も、活動の主体は同じく海保に置いていた。だが、海保のみで対応できない特別の事情がある場合は自衛隊が「海上における警備その他の所要の措置」を行うと明記していた。

海上警備行動の発令により、抑止力の高い海上自衛隊の護衛艦が不測の事態に備えて海保の巡視船を警備することや、北朝鮮船舶の追跡なども検討された。

今回出された特措法案にも「関係行政機関の協力」に関する条項はあるが、自衛隊が日常の警戒監視活動で得た情報を海保に伝える程度にとどまりそうだ。

しかし、日本が制裁決議を履行するには、海保に加えて自衛隊の投入が不可欠だ。それが北の脅威を直接受ける当事国の決意を内外に示すことにもなる。

「自衛隊は違憲状態」と唱える社民党の政権参加は、鳩山内閣の外交・安全保障政策の不透明さを増幅している。鳩山由紀夫首相は主体的に自衛隊の位置付けを決断すべきだ。社民党次第で、国民の安全を守る政策が変わるような対応は許されない。

民主党内には、11月30日までの会期内で法案を成立させるのは難しいとの見方もある。だが、制裁決議後も、法制上の不備を放置していることは許されない。「国連重視」を民主党は標榜(ひょうぼう)している。国益のために早期に成立させる責務がある。

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