地震想定見直し 首都の減災対策強化を急げ

朝日新聞 2012年04月20日

首都直下地震 燃えない街への工夫を

30年以内に来る確率が高いといわれる首都直下型地震。その被害の想定を、東京都が6年ぶりに見直した。

最悪の場合、都内だけで死者9700人、建物被害30万棟。地震そのものに加え、火災が怖い。死者の4割強、建物被害の6割強を占めると予測する。

東京の弱点は、木造の家屋がひしめく「木造住宅密集地(木密〈もくみつ〉)」が広がっていることだ。23区西部や南西部、東部の下町を中心に1万6千ヘクタール。山手線の内側2個分もの土地に、150万世帯が暮らす。

木密を火に強い街につくりかえる。いつ地震が来てもいいように地域の防災力を高める。二つの対策を、同時に進めなければならない。

街のつくりかえは、道路の幅を広げて延焼を防ぐ帯をつくること、そして古い木造の家を燃えにくい素材で建てかえることが柱だ。

ところが、木密の街は高齢化が著しい。家が狭いから、若い人は街を出る。残されたお年寄りは費用や時間を考え、建てかえや引っ越しをためらう。

地震が来たらあきらめる、という人もいる。だが、燃え広がれば他人を巻き込んでしまう。放ってはおけない。

都は木密対策として不燃化特区をつくることを決めた。建てかえを手厚く支援する一方、住民の土地や家を買い取って立ち退かせる「強制収用」の活用を区に求める。そうしないと対策は進まない、という。

時間との闘いだ。やむをえない面がある。ただ、収用はあくまで最後の手段で、やたらと使えるものではない。しかも、こんなに広い木密だ。結局は粘り強い説得が要る。

大切なのは、街のつくりかえだけに頼らず、地震が来ても大きな被害を出さない手立てだ。

震災の際は、消防車の数を上回る数の火事が起きる街が出てくる。それが大火につながる。

消防車は来ないと考え、小さな火は住民の手で消せる態勢を整えておくべきだ。都市防災に詳しい東京理科大の関沢愛教授は、そう指摘する。

人力で動かせて路地にも入れる「可搬式ポンプ」や、消火栓とホースをつなぐ「スタンドパイプ」を、町会ごとに備える。訓練を繰り返し、いつでも使えるようにする。そんな地道な備えを、地域で重ねよう。

木密の近所づきあいの濃さは防災に役立つ。街のつくりかえも、人のまとまりを壊さぬように進めたい。ご近所の数軒がまとまって、鉄筋の共同住宅に建てかえる。そんな手もある。

読売新聞 2012年04月20日

地震想定見直し 首都の減災対策強化を急げ

大地震の危険性が指摘されてきた首都・東京の防災体制を抜本的に見直す必要がある。

東日本大震災を受け、東京都が地震被害想定を6年ぶりに更新した。

直下型の東京湾北部地震が起きると、人的被害は最悪となる。都内の建物の約1割に相当する30万棟が全壊・焼失して、約9700人が死亡すると予測している。

前回想定した死者数は約6400人だったが、約1・5倍に膨れ上がった。甚大な被害である。

地震学の最新研究で、強い揺れが予想される地域が約1・5倍に広がったことが深刻な数字につながった。23区内の7割は震度6強以上で揺れる。震度7の地域もあり、鉄筋コンクリート製の建物さえ全壊するものがある。

住宅の耐震・耐火性は向上しているが、とりわけ、23区内の木造住宅密集地域で倒壊、火災の多発が予測されている。

都は、今年度から、こうした地域で耐火住宅への建て替えを強制的に進める制度を設けた。今夏にも、対象地区を選定する。

被害を減らせるよう、着実に取り組まねばならない。

自宅の被災などによる避難者も約339万人にのぼる。東日本大震災の約10倍だ。都内の企業で働く会社員ら約517万人が帰宅困難になるとも推計している。

帰宅困難者対策について、都は3月、企業に3日分の水、食料の備蓄を求める条例を制定した。確実に履行してもらいたい。交通機関や宿泊施設、コンビニなどとの協力も強化すべきだ。

都心を訪れる買い物客や観光客の支援も検討しておきたい。

都は、9月までに対策の基本となる新たな地域防災計画を策定する。確実な減災を目指して計画をまとめねばならない。

大都市での地震では、被害想定が困難なものも多い。

今回の見直しでは発生の可能性が列挙されているだけだが、例えば多数が集まるホールなどの倒壊に備えた救助・救援対策を事前に講じておく必要がある。東京湾で津波が起きれば、船舶が流され大規模な火災も起こり得る。

都心の高層ビルでは、ゆっくり大きく揺れる長周期地震動による被害があるかもしれない。

政府も今冬、首都圏全域の被害想定をまとめる。首都圏に集中する政府中枢、企業の本社、物流の拠点を、どう維持するか。

日本の政治、経済をマヒさせないよう、大阪など主要都市との協力も視野に、万全を期したい。

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