難航していた東京電力の次期会長人事が、ようやく決着した。
原子力損害賠償支援機構の下河辺和彦・運営委員長が19日、野田首相の就任要請を受諾した。
福島第一原子力発電所事故などの責任を取り、6月下旬に辞任する勝俣恒久会長の後任となる。
下河辺氏は企業再生に詳しい弁護士だ。「私が陣頭に立って取り組みたい」と決意を述べたが、企業経営の手腕は未知数である。
政府は当初、民間経営者の起用を模索し、打診を受けた財界人はことごとく固辞した。
今後、巨額の賠償や廃炉費用の負担が予想され、経営の展望が見通せないためだ。
迷走する政府のエネルギー政策に対し、経済界が不信を募らせていることも大きい。政府側の支援機構からトップを出す「苦肉の人選」だったといえる。
新経営陣が決まらなかったことで、東電再生の事業計画策定は遅れ、支援機構に申請した公的資金を得られないでいる。
資金不足で経営が行き詰まることのないよう、新会長の内定を受け、東電は事業計画の策定を急がねばならない。
東電は、新潟県にある柏崎刈羽原発を2013年度中に再稼働することを前提として、業績の回復予測を立てている。
ところが、枝野経済産業相は繰り返し「脱原発」を目指す考えを表明している。担当閣僚の言動が早期再稼働への道筋を不透明にしているのは問題だ。
東電も経営陣の刷新を機に、原発の安全を再確認し、地元に理解を求めるべきである。
政府が東電株の議決権の過半数を握り、事実上国有化する方針を示している点も懸念される。特に枝野氏は、国有化をテコに発電と送電の分離など東電の経営形態を見直し、電力制度改革を進める姿勢を見せている。
発送電の分離は、電力の一貫供給体制を揺るがし、事業基盤を弱体化させるとの指摘もある。電力供給に不安のある状況下で強行すべきではあるまい。慎重な検討が求められる。
東電自身の失態も事態を悪化させた。収益改善に欠かせぬ電気料金値上げでは、東電の不親切な説明が反発を買い、大口契約者の6割が新料金に合意していない。7月に予定している家庭向けの料金値上げも難航しよう。
東電は、利用者軽視と批判の多い企業体質を改め、信頼回復に努める必要がある。
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