東電会長人事 政府の迷走で改革遅らせるな

朝日新聞 2012年04月20日

東電会長人事 つなぎ役としての大任

東京電力の国有化にともなう新しい会長に、原子力損害賠償支援機構の運営委員長で弁護士の下河辺和彦氏(64)が就く。

民間経営者からの起用が難航した末の人事だ。ただ、いまの東電の状況を考えれば、破産法制や企業再生の専門家である下河辺氏の就任はむしろ望ましい面がある。

福島第一原発事故の賠償、除染、廃炉処理がのしかかり、東電は実質的に債務超過にある。本来なら破綻(はたん)処理に踏み切ったうえで再建を目指すところだ。

だが、政府は財政支出を避けようと、賠償に必要な資金は出しつつ、長期にわたって東電に返済させる仕組みにこだわってきた。東電の経営に直結する原子力政策の見直しや電力改革も作業の途上にあり、明確な方向性が打ち出せていない。

これでは、企業経営の経験者が手腕を発揮したくとも、手足を縛られる。人材を出せなかった経済界も情けないが、人事の難航は政府が自らまいた種ともいえる。

東電を生かさず殺さずの形にして、賠償費用の捻出を取り繕う今の枠組みは早晩、壁に突き当たる。国民負担が避けられないことを踏まえて、東電の株主や取引金融機関の責任を問う抜本的な処理を急ぐべきだ。

下河辺氏は自らの知識や経験を生かし、広い視野でこれに応じてほしい。新会長にとって、守るべきは東電そのものではなく、電力の供給である。

そのためにも、電力消費の抑制を採り入れた新しい事業形態を築いていく必要がある。大胆なリストラや職員の意識改革は不可欠だ。

下河辺氏は、東電の財務調査などを通じて、非効率な資材調達の実態や料金制度の不備といった電力産業の問題点をあぶり出してきた。

電力改革を進める枝野経済産業相らと考え方が近いのも利点だ。新たな電力体制に向けた「つなぎ役」としての大任を果たしてほしい。

下河辺氏がまず求められるのは、賠償に誠実かつ迅速に応じていくことだ。

野田政権の責任は重い。事故の被害者のみならず、値上げを求められた企業や消費者は、東電のこれまでの姿勢に不満や不信を募らせている。下河辺氏だけを矢面に立たせるようなことになれば、だれも「次」を引き受けようとはしないだろう。

政府は賠償をきちんと支援する。事故の反省に基づいた原発政策と電力改革を進める。それがあいまって初めて東電は生まれ変われる。

読売新聞 2012年04月20日

東電会長人事 政府の迷走で改革遅らせるな

難航していた東京電力の次期会長人事が、ようやく決着した。

原子力損害賠償支援機構の下河辺和彦・運営委員長が19日、野田首相の就任要請を受諾した。

福島第一原子力発電所事故などの責任を取り、6月下旬に辞任する勝俣恒久会長の後任となる。

下河辺氏は企業再生に詳しい弁護士だ。「私が陣頭に立って取り組みたい」と決意を述べたが、企業経営の手腕は未知数である。

政府は当初、民間経営者の起用を模索し、打診を受けた財界人はことごとく固辞した。

今後、巨額の賠償や廃炉費用の負担が予想され、経営の展望が見通せないためだ。

迷走する政府のエネルギー政策に対し、経済界が不信を募らせていることも大きい。政府側の支援機構からトップを出す「苦肉の人選」だったといえる。

新経営陣が決まらなかったことで、東電再生の事業計画策定は遅れ、支援機構に申請した公的資金を得られないでいる。

資金不足で経営が行き詰まることのないよう、新会長の内定を受け、東電は事業計画の策定を急がねばならない。

東電は、新潟県にある柏崎刈羽原発を2013年度中に再稼働することを前提として、業績の回復予測を立てている。

ところが、枝野経済産業相は繰り返し「脱原発」を目指す考えを表明している。担当閣僚の言動が早期再稼働への道筋を不透明にしているのは問題だ。

東電も経営陣の刷新を機に、原発の安全を再確認し、地元に理解を求めるべきである。

政府が東電株の議決権の過半数を握り、事実上国有化する方針を示している点も懸念される。特に枝野氏は、国有化をテコに発電と送電の分離など東電の経営形態を見直し、電力制度改革を進める姿勢を見せている。

発送電の分離は、電力の一貫供給体制を揺るがし、事業基盤を弱体化させるとの指摘もある。電力供給に不安のある状況下で強行すべきではあるまい。慎重な検討が求められる。

東電自身の失態も事態を悪化させた。収益改善に欠かせぬ電気料金値上げでは、東電の不親切な説明が反発を買い、大口契約者の6割が新料金に合意していない。7月に予定している家庭向けの料金値上げも難航しよう。

東電は、利用者軽視と批判の多い企業体質を改め、信頼回復に努める必要がある。

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