南海トラフ津波 想定受け止め対策を

朝日新聞 2012年04月08日

南海トラフ巨大地震 災害に備えた住み方へ

私たちが日本列島で安全に暮らすには、どこにどう住み、どのように土地を使うべきなのか。街づくりから根本的に考え直すべきときだ。

列島に潜む災害リスクを見せつけた地図のメッセージを、そう受け止めたい。

高さ10メートル以上の津波が来る可能性を示す太い線が、東京都の離島、そして伊豆半島から九州にかけての太平洋岸にそって、ほぼ切れ目なく続いている。

内閣府の検討会が、東海沖から日向灘に至る「南海トラフ」海域の巨大地震に伴う津波の想定を見直した。トラフとは海底が細長くくぼんだ地形をさす。

これまでの想定をはるかに上まわり、津波の高さが20メートルを超すところが多く、最大では34.4メートルに及ぶ。しかも、早ければ数分で押し寄せる、という。

近くに高台はなく、とても逃げようがない――。沿岸の自治体からそんな嘆きも聞こえる。

かといって、海岸線を高々とそびえる防潮堤で覆い尽くすわけにもいかない。

ならば、どうするか。

一朝天災に襲われればきれいにあきらめる。滅亡するか復興するかはそのときの偶然の運命に任せるという捨て鉢の哲学も可能である――。

寺田寅彦は「津浪(つなみ)と人間」にそう書く。昆虫のように、明日を心配せずに生きてもいい。

しかし、と続く。自然の法則をまげられないのは昆虫も人間も同じだが、「人間の科学は人間に未来の知識を授ける」と。

そして、地震や津波の知識を持って備える重要性を説く。

寅彦が経験した昭和の三陸大津波のころに比べれば、地下のプレート境界で巨大地震が引き起こされることなど、地震の理解は進んだ。

しかし、今回、全く予想されなかったマグニチュード(M)9.0の巨大地震に不意打ちされ、科学による「未来の知識」の限界も見せつけられた。

このため、東海、東南海、南海という南海トラフでの3連動地震の想定も、過去の経験に基づく従来のM8.7から東日本大震災なみのM9.1に上げ、何通りもの試算をした。

その最悪の結果をつなぎ合わせたので、すべての地域が同時にこのような津波に襲われるわけではなく、それぞれの確率もわからない。しかし、対策のために最悪のケースを示した。

M9級の巨大地震は20世紀以降、東日本大震災をいれて地球全体でも5回程度だ。ひとたび起きれば甚大な被害をもたらすが、それぞれの地域では数百年に一度とされる。今世紀半ばにもと予想される南海トラフの3連動地震はたとえM9級より小さくても、深刻であることは間違いなく、油断できない。

政府の中央防災会議は、最大級の津波に対しては逃げることで命を守り、数十年間隔の津波は防潮堤などのハードとソフトの組み合わせで被害を抑える2段階の考え方を示している。

想定図の大津波の恐れがある海岸線には、静岡市、浜松市、愛知県豊橋市、高知市などの大都市や工業都市がならぶ。

高い建物への避難など、いざという時の安全のすべを確かめておく。そして、身を守る判断ができるには、ふだんからの実践的な防災教育が大切だ。東日本大震災の教訓を生かしたい。

だが長期的には、災害がくることを前提に、土地の使い方を見直して被害を小さく抑えられる町へと変えていくべきだ。

できるだけ安全な場所に、安全な住まい方をする。

人口減少の時代を迎えた今なら、政策として方向づけをすることもできるはずだ。

発電所など重要な施設や工場などの配置は、災害時のリスクを十分に考えることが重要だ。

今回の推定では、浜岡原発のある静岡県御前崎市は最大21メートルの津波に襲われる。ここはまさに震源域でもあり、リスクの高い施設の立地は許されないことを改めて確認しておきたい。

甚大な被害をもたらすのは、大津波だけではない。

首都圏の直下地震についても東京都と神奈川県の一部が、最大級の震度7になりうると最新の研究で明らかになった。

首都圏、中部、関西の3大都市圏の防災上の大きな弱点は、広大な海抜ゼロメートル地帯に何百万もの人が住んでいることだ。台風や高潮だけでなく、地震で堤防が壊れたら、多くの命が危険にさらされる。

一方、温暖化による海面の上昇も気がかりだ。「島国の日本は、臨海部を開発・利用することで繁栄を築いてきた。臨海部の土地利用を、防災も含めて長期的な視点で考え直す必要がある」と、水問題にくわしい高橋裕・東大名誉教授は強調する。

短、中期的に建物の耐震化を進めつつ、長い目で災害に強い街へと造りかえてゆく。豊かな自然と災害がある列島に住む私たちの、未来がかかっている。

毎日新聞 2012年04月03日

南海トラフ津波 想定受け止め対策を

これまで想定された2~3倍の津波高が公表された。西日本の太平洋沖に延びる「南海トラフ」で発生が懸念される巨大地震に伴うものだ。

内閣府の有識者検討会が、地震の規模を示すマグニチュード(M)を東日本大震災なみの9・1に設定し、最新の科学的知見に基づき、考えられる最大級の被害を試算した。

震度6強以上は21府県395市町村で、03年に被害想定した際の5倍以上に拡大した。また、満潮時の津波高は、東京の島しょ部や静岡、愛知、三重、徳島、高知の6都県23市町村で20メートルを超えると予測した。最大は34・4メートルの高知県黒潮町だ。

深刻なのは、中部電力浜岡原発が最大21メートルの津波に襲われる可能性が指摘されたことだ。東京電力福島第1原発事故を受けて、中部電は緊急安全対策の一環で高さ(海抜)18メートル、長さ1・6キロの防波壁を年内完成を目指して建設中である。

だが、想定に従えば津波は防波壁を越え、浸水は原発敷地にまで及ぶ。当然のことながら、津波対策を含めた抜本的な見直しが必要だ。

注目されるのは、人口が多い都市部でも相当な津波高が予想されることだ。愛知県豊橋市は20メートルを超え、静岡、浜松、高知、宮崎の各市でも10メートルを超える地点がある。

検討会は4月以後、津波高予測に基づく浸水想定区域を公表する。中央防災会議も死者数や全壊棟数など被害想定を6月に公表予定だ。

津波対策は、避難の遅れから多数の被害者が出た東日本大震災の教訓をどう生かすのかが基本だ。南海トラフを震源域とする東海、東南海、南海地震が想定される太平洋側の市町村は、特に対策が急がれる。

中央防災会議の専門調査会は昨年、津波が発生した場合、原則として歩いて5分程度で安全な場所に避難できるまちづくりを提言した。だが、今回の想定では高さ1メートルの津波が最短2分で到達する。津波避難ビルの新たな指定や津波避難タワー建設、高台への避難路確保など具体的に動き出した地域もあるが、避難時間も含め見直しを迫られよう。

最終的には、国の財政面での支援が欠かせない。国は今夏にも当面実施すべき対策をまとめるが、重要なのは国と都道府県、さらには市町村が一体的に対応することだ。どう優先度をつけて対策を進めるのか、互いに議論を深めてほしい。

また、東南海・南海地震と、予知を前提とした東海地震では、対策を規定した特別措置法の内容が異なっている。しかし、広域での避難や減災対策が求められる現状では、一本化が望ましいとの声が知事会議などから出ている。必要な法改正ならば、国は早急に取り組むべきだ。

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