スーチー氏当選 民主化推進に期待する

朝日新聞 2012年04月03日

ミャンマー補選 民主化さらに加速を

ミャンマー議会の補欠選挙で、アウンサンスーチーさん率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝を宣言した。投開票された45選挙区のほとんどで議席を得たという。

ただ、改選数は国会の全議席の1割に及ばない。このため、軍の関係者が政権や議会で絶対多数を占める政治状況がすぐに変わるわけではない。

一部では選挙が延期になったし、不正の報告もあった。

それでも、NLDが参加しなかった2年前の不透明な総選挙に比べ、各国監視団や報道陣の見守るなかで実施された補選の意義は大きい。

民主化の歯車がひとつ回ったと評価できる。

「民政移管」から1年余り。テインセイン大統領がスーチーさんと面談し、一連の改革を始めてから、まだ数カ月だ。国民は新政権の実績より、軍事政権時代への反発を投票で示したとみるべきだろう。

この厳しい民意を、政権は正面から受けとめるべきだ。敵視し、強権体質に戻ることなどあってはならない。

こうした危惧を抱くのは、90年の総選挙で、NLDが大勝したにもかかわらず、軍政が政権を明け渡さず、独裁体制を敷いた歴史があるからだ。

いまこそ政権は、全議席を争う3年後の総選挙を民主化の総仕上げとすることを確認すべきだ。そのうえで、民主化をさらに進める。経済改革に着手し、その果実を国民と分かち合う。それで国民の信頼を得て、選挙での勝利をめざしたらいい。

少数民族との和解や、残る政治犯の釈放はその前提だ。

軍政時代に抵抗のシンボルだったスーチーさんたちは今後、野党として体制内で変革をめざすことになる。これまでと違い、具体的な成果を求められる立場になり、責任も重くなる。

民主化を阻む最大の壁は、軍政が制定した憲法だ。議員の4分の1を軍人と定め、改正を阻止できる仕組みにしてある。こんな軍の絶対優位を保障した憲法を改めて初めて、国際社会から民主国家と認められる。

改正を求めてきたNLDが国会で、政権にどんな議論を挑むのかに注目する。

補選を受けて、欧米諸国は経済制裁解除の検討を本格化させるだろう。

日本政府も近く来日するテインセイン大統領に、円借款の再開を表明する見通しだ。

だが、経済支援が民主化に寄与し、国民の生活向上に結びついているかどうか。各国とも点検しつつ進めることが肝心だ。

毎日新聞 2012年04月03日

スーチー氏当選 民主化推進に期待する

ミャンマーの民主化運動指導者アウンサンスーチー氏が国会議員に当選した。長年にわたって自宅軟禁下に置かれ、政治活動を封じ込まれてきたスーチー氏の国政参加がようやく実現する。現政権が進める改革路線が民主化の進展につながるよう、スーチー氏の役割に期待したい。

選挙は、上下両院(計664議席)と地方議会で閣僚就任などによって空席となった45議席を争った。スーチー氏率いる政党「国民民主連盟」(NLD)の独自集計などでは、大半の選挙区で同党の候補が勝利する見通しだ。民主化を願う国民の意思が改めて示されたことになる。

改選議席が上下両院の1割に満たないため、親軍政党である「連邦団結発展党」と軍人枠とで8割以上を占める国会の勢力図に大きな変化はない。とはいえ、国内外に強い影響力を持つスーチー氏が国政に参加する意味は大きい。

スーチー氏は88年に滞在先の英国から帰国して以来、民主化運動を率いてきた。その影響力を恐れる軍事政権によって自宅軟禁が繰り返され、一昨年11月の解放まで軟禁期間は計15年に及んだ。

昨年3月に軍事政権から民政に移管した後、テインセイン大統領の下で改革が進んでいる。スーチー氏との対話やメディア規制の大幅緩和、政治囚釈放などである。真の民主化にはまだ程遠いとはいえ、軍事政権時代には考えられなかった動きだ。

改革がさらに進展するかどうか、その大きな鍵を握るのがスーチー氏だ。20年以上にわたって軍事政権と厳しく対立してきたスーチー氏は、昨年8月のテインセイン大統領との会談を機に、政府の改革に協力する姿勢に転じている。

ただしスーチー氏は現政権の動きを全面的に評価しているわけではない。「軍に支配された見せかけの民主主義だ」と表現し、真の民主主義には「法の支配」「少数民族との和解」「憲法改正」が必要だと唱えている。国会の場でそうした論議が本格化し、真の民主化に向けて歩み出すことを望みたい。

ミャンマー政府は今回の選挙で各国からの選挙監視団を受け入れた。国際社会が、選挙が自由で公正なものだったと評価すれば、欧米が科している経済制裁の緩和や一部解除につながる可能性がある。

日本政府は最近のミャンマーの改革路線を評価し、凍結してきた政府開発援助(ODA)の円借款を約25年ぶりに再開する方針だ。これに対し、スーチー氏は「少し性急ではないか」と懸念を示している。援助がミャンマー国民のために有効に使われ、民主化を促すものとなるよう細心の注意を払う必要がある。

読売新聞 2012年04月04日

ミャンマー補選 民主化路線に弾みをつけたい

ミャンマーの軍事政権と対立し、約15年間も自宅軟禁を強いられた民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが、初めて国政に参加することになった。

民政移管から1年がたったミャンマーで行われた議会の補欠選挙で、野党・国民民主連盟(NLD)が圧勝した。党首のスー・チーさんも下院議員に当選し、「この勝利が新たな時代の幕開けになることを願っている」と語った。

ミャンマー政治は大きな転機を迎えたと言える。テイン・セイン大統領には、民主化路線を加速してもらいたい。

補選は、2010年総選挙の当選者のうち閣僚就任に伴う辞職などで生じた欠員を補うものだ。NLDは総選挙を拒否して政党資格を失ったが、政権の政党再登録承認を受けて補選に参加した。

「自由で公正な選挙」を実現することが、民主化の定着度を占う試金石だった。国際的な選挙監視団を受け入れ、一部で不正も伝えられたものの、選挙が混乱なく終了したことは評価できる。

補選でNLDが勝利したとはいえ、議席は上下両院の1割に満たない。軍政の翼賛組織を継承した与党・連邦団結発展党や軍人枠議員は全体の8割に上る。

それでも、議会の一角をNLDが占めたことは、民主化の促進に向けた重要な一歩となる。

NLDは15年の総選挙に向けて、少数民族との和解や、軍人枠撤廃など憲法改正を求めて行く考えだ。政権が軍内の守旧派の動向をにらみながら、どこまで民主化に応じるかが焦点となる。

NLDも、経済改革などを巡る提言能力が問われよう。

東南アジア諸国連合(ASEAN)の最貧国ミャンマーにとって、急務は経済再建だ。14年にはASEAN議長国を務める。民主化進展をテコに、国際社会との関係改善をさらに進める必要がある。

補選の公正な実施を制裁解除の条件としていた欧州連合(EU)は、今月下旬の外相理事会で解除の是非を判断する。米国も、段階的な制裁緩和へ動くだろう。

日本政府は、欧米に先駆けて支援に乗り出した。今月下旬には大統領を招き、野田首相は、大型インフラ支援につながる円借款の供与再開を表明する方針だ。

タイやベトナムに続く新たな投資先として、日本企業はミャンマー・ビジネスの将来性に期待する。政府は、投資環境改善につながるような協力を進め、改革を一層後押しすべきである。

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