JAL支援 国民のために生かせるか

朝日新聞 2009年10月30日

JAL支援 国民のために生かせるか

日本航空の再生に向け、政府をあげて支援することになった。関係各省による対策本部を設け、公的管理下で経営の立て直しを進める。

民間企業にこれほどまで政府がてこ入れするのは異例のことだ。なぜ支えるのか、国民にどんな利点があるのか。前原誠司国土交通相はもちろん鳩山由紀夫首相も、納得いく説明をしなくてはならない。

日航は資金繰りが悪化し、11月中に2千億円規模の借り入れが必要になった。だが民間金融機関は追加融資には後ろ向きだ。もはや政府保証がない融資は期待できなくなっている。

来年3月までに3千億円規模の資本増強も必要とされ、公的資金なしには、それもままならない。

そこで、発足間もない官民出資の再生ファンド「企業再生支援機構」に支援を担わせ、政府保証つきの融資や公的資金による資本注入を検討する。

民間企業に公的資金をつぎ込むのは本来、禁じ手である。経営に締まりがなくなり、政府介入によるゆがみも無視できないからだ。

90年代の金融危機では主要銀行に公的資金が注入されたが、守るべきは個々の銀行ではなく、金融システムだという原則があり、それが国民の理解を得る土台にもなった。

日航の場合も、守るのは日本の航空網や健全な航空市場であって、長年の放漫経営で危機を招いた日航そのものではない。その原則を押さえておく必要がある。

この点で、政府が日航の財務の重荷になっている約8千億円の企業年金債務を削減しようとしているのは、うなずける。日航退職者の給付水準を強制的に引き下げるために、特別立法を検討するという。

労働債権のカットには慎重であるべきだが、実質的に債務超過の日航に公的資金を投入する以上、やむを得ないのではないか。

当然のことながら、痛みは経営陣と従業員、株主はもちろん、銀行、地方空港などすべての利害関係者に及ぶ。公的資金投入にはそれが条件だ。

それでも国民の間には、日航の経営失敗のツケをなぜ払わされるのか、という疑問は消えないかもしれない。それに答えるには、いまの「負担」が国民の役に立つ「投資」でもある、と説明できるような再生の理念と道筋を描くことが求められる。

長い目で見れば、日航の再生と経営安定は航空路線網の充実やサービス向上につながる。日航の株価もいずれ上がり、公的資金は回収できる。そんな期待ができる未来図が必要だ。

政府の航空戦略も重要になる。ハブ空港や航空自由化がいかに経済成長と国民の利便をもたらすか、日航再生計画とセットで示さねば説得力はない。

毎日新聞 2009年10月31日

日航再建 公的資金の重さ認識を

日本航空の再建が、国の管理下で進められることになった。前原誠司国土交通相が任命したJAL再生タスクフォースが、企業再生支援機構の活用が必要との報告書をまとめ、これを受ける形で日航は機構に支援を要請した。

タスクフォースのメンバーは、再建策を取りまとめ、それを実行するため日航の経営に参画することも想定していた。しかし、日航にたまった積年の負の遺産を解消に向かって導くのは大変な作業だ。法的な裏付けを持たず、資金拠出などの権限もないタスクフォースにとっては、荷が重すぎた課題だったようだ。

経営再建の道筋が不透明だとして銀行団と折り合えず、債務削減について合意を得ることができなかった。公的資金の投入については、国民の理解が必要だが、その前提ともいえる企業年金の給付引き下げについても、具体的な方策を示すことができなかった。

タスクフォースの報告書は公表されないままお蔵入りとなった。そして、日航の再建は、自公政権時代に仕組みがつくられ、業務を開始したばかりの企業再生支援機構にゆだねられた。

政治主導とはいうものの、意気込みだけでは、どうにも歯が立たなかったということだろう。

企業再生支援機構は、経営不振に陥った企業の再生に取り組むためつくられた官民出資のファンドで、支援機構は改めて日航の資産査定を行い、銀行などの債権者との調整を経て支援策を策定する。

総額1兆6000億円の公的資金枠を持ち、それを使って出資や融資、銀行からの債権の買い取りなどを行い、3年以内の再生をめざす。

ただし、日航の資金繰りは厳しい状況が続いている。機構による支援決定までに時間が必要で、つなぎ資金を確保するため政府は特別措置をとらざるを得ないという状況だ。

日航が自立した企業として再生することが必要であることは、言うまでもない。そのためには、会社更生法や民事再生法などを適用して法的整理を行うという選択もあったはずだ。しかし、政府は、私企業である日航の再建に、国民の負担に結びつく公的資金の活用という道を選んだ。政府の責任は重い。

赤字路線からの撤退や人員削減も必要だろうし、企業年金の給付水準の引き下げについては、強制的な減額を視野に入れた特別立法なども検討されるという。

これまで手がつけられなかった分野についても、きちんとした対応をし、困れば国の支援に頼るという日航の経営体質を、抜本的に改革してもらいたい。

読売新聞 2009年10月30日

日航再建 今度こそ甘えは許されない

両翼を国に支えられ、何とか再建に向けた離陸の準備に入った。だが、航路の前方は厚い雲に覆われている――。日本航空の現状を旅客機に例えれば、こんな状況だろう。

経営難に陥っている日本航空が29日、「企業再生支援機構」に支援を要請した。日航の再建は今後、国と銀行が設立した公的機関の下で進むことになる。

この事態を受け、政府は国土交通省を中心とした関係府省による対策本部を設け、公的資金の投入などで再建を全面支援する。

そのために、特別立法の制定も検討するという。国がここまで民間企業の再建に関与するのは異例のことだ。それだけ、日航の経営が危機的だということである。

日本の航空輸送の6割を担う日航が経営破綻(はたん)すれば、国民生活や経済活動にも大きな影響が出る。公的資金を含めた国の支援はやむを得ないだろう。

だが、日航はこれまで何回も国の支援を受けながら、親方日の丸的な甘い体質から脱却できなかった。二度とこうした事態を招かないよう、抜本的な経営改革に取り組まなければならない。

企業再生支援機構は、ダイエーなどの再建を手がけた産業再生機構を参考に設立され、今月半ばから業務を始めた。支援対象企業の株や債権を買い取り、不採算事業の整理などを進める。

日航の再建策作りに取り組んできた国交省の特命チームは、7000億円を超す金融支援と、抜本的なリストラを進めることで、再建は可能と判断している。

このため日航は今後、9000人の人員削減や、内外45路線の廃止・減便、ホテルを運営する子会社の売却などを進める方針だ。

3300億円の積み立て不足がある企業年金の削減も、再建に向けた大きな課題となる。

日航に公的資金が投入されれば、その一部は年金支給の原資にも回る。これでは、国民はとても納得しないだろう。政府は強制的に年金を削減する措置も検討しているが、それを待たず、労働組合やOBは削減に応じるべきだ。

日航には、八つの労組がある。複雑な労使関係が経営改革の足かせになっているのは明らかだ。この際、労組の整理・統合に踏み切る必要がある。現経営陣の刷新も避けられまい。

機構は日航の財務状況を改めて精査する方針で、最終的に再建計画が固まるのはまだ先になる。日航は、この間の安全運航に万全を期してほしい。

産経新聞 2009年10月31日

日航再建 民事再生法なぜ活用せぬ

経営が悪化した日本航空は政府管理下で再建をめざすことになった。官民出資の企業再生支援機構を使って債務を整理した上、公的資金で日航に出資や融資を行う方向で検討に入った。

しかし、「一私企業である日航を、なぜ公的資金を使ってまで支援するのか」という国民にとって最大の疑問は解けない。前原誠司国土交通相は「このままでは飛行機が飛ばなくなる」と説明するが、説得力は弱い。

米国ではデルタ航空やユナイテッド航空など大手航空会社が経営破綻(はたん)し、連邦破産法11条にのっとって債務を整理し再生している。期間中、各社は政府に頼ることなく営業を継続し、運航に支障はでなかった。日本にもそれと同等の民事再生法がある。なぜそれを活用できないのか。

政府支援を受ける日航と同じケースでは、自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)がある。GMは債権者や労組、年金受給者らの利害関係者との調整を事前に行った上、11条を活用し再生した。

企業再生支援機構を使っても、公的資金の思惑が絡んで利害関係者間の調整がうまくいくとは限らない。日航はすでに債務超過とされている以上、民事再生法を活用する方が管財人の下で迅速に再建手続きに移行できる。法的整理を排除する理由はないはずだ。

時間を空費している間に、資産劣化と資金繰りの悪化が進む。前原国交相は9月に就任後、大臣直属の専門家チームを組織し、再建策作りを委ねた。チームは1カ月にわたって利害関係者間の調整を進めてきたが、まとまらなかった。前原国交相が「法的整理を選ばない」と早々と言明したため、破綻しないと高をくくった債権者らは、債権カット案などに首を縦に振らなかったからだ。

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社説比較くん 4.0.1 リリース - 2009/11/01 11:39
 外人スパマー自重しろ、1 分間に 1 回投稿とか何考えてやがる。URL 書いても rel="nofollow" 付きでリンクしてるから SEO 効果とか無いぞ。

 …というわけで。非常に簡単にではありますが、...
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