毎日新聞 2012年03月30日
東電が1兆円要請 殿様商売は許されない
東京電力が、公的資金による1兆円の資本注入を政府の原子力損害賠償支援機構に申請した。
認められれば、債務超過による倒産を免れる。国による救済が許されるのは、電力供給の重い責任を負う公益企業だからだ。その特権だけを享受し、殿様商売を続けることは許されない。
ところが、電気料金値上げを巡る東電の一連の行動には目に余るものがある。利用者本位への意識改革を資本注入の前提にすべきだろう。
東電は、原発停止に伴う火力発電の燃料費や福島第1原発の廃炉、除染などの費用がかさむため、資本注入がなければ、13年3月期にも債務超過に陥る見通しだ。
今回は、原発事故の賠償金として約8500億円の追加支援も申請した。公的資金による支援は原子力損害賠償法に基づく1200億円を含め、約3兆5000億円に膨らむ。賠償費用は、増え続ける。
これほど巨額の公的支援が必要になったのは、いうまでもなく東電が原発事故を起こしたからだ。ところが、値上げを巡る言動からは、自らが招いた厄災であるという自覚が感じられない。
始まりは、西沢俊夫社長の「値上げは権利」発言だ。4月1日から実施する企業向け電力料金値上げを巡る事務的な対応も不誠実だった。既存の契約が残っている間、値上げに応じる義務はないが、大半の契約者に対しては、郵便などで「4月から値上げする」と通告しただけだった。企業側の反発は強く、9割近い契約企業が4月以降の値上げに同意していないという。
値上げを拒否して契約更新できない場合、東電が大手電力以外の新規事業者を紹介する。その事業者と契約できず、東電と再契約する場合、料金は2割高くなる。最終的に契約しなければ電気を止める可能性がある、というのが東電の説明だ。
絵に描いたような「殿様商売」ではないか。新規事業者のシェアは3%程度にとどまり、供給余力もない。事実上、東電と契約せざるを得ないことは分かっているからだ。
枝野幸男経済産業相は「機械的な対応は社会的に許されない」として東電を行政指導するという。しっかり指導力を発揮してほしい。
不誠実な対応のつけは、東電にも回ってくる。企業向けの値上げが思うように進まないため、約4000億円と見込んだ増収は、1000億円規模で目減りする見通しだ。
策定中の総合特別事業計画は、料金値上げと原発の再稼働を前提とする。どちらも国民の理解と信頼が欠かせない。東電再建には、「独占企業」体質の抜本的な改革が必要だ。
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読売新聞 2012年04月01日
東電公的資金 国の過剰介入は避けるべきだ
東京電力は、公的資金1兆円の資本注入を、政府の原子力損害賠償支援機構に申請した。
損害賠償の支払いにあてる資金援助も約8500億円を追加申請した。
東電が、福島第一原子力発電所の事故に伴う損害賠償や廃炉、火力発電の燃料費などの負担で、債務超過に陥りかねないためだ。
事故収束、損害賠償、電力供給の責務を、東電がしっかり果たすよう、政府が新たに資金注入するのはやむを得ないだろう。
実現すれば、東電への公的支援は、これまでの実施分も含めて約3・5兆円に達する。
問題は、注入の前提となる東電の事業計画作りが遅れていることだ。東電への国の出資比率や、勝俣恒久会長の後任人事の調整が難航している。東電と支援機構は、計画策定を急がねばならない。
枝野経済産業相は、国が東電株の議決権の過半数を握り、一気に国有化する構えを見せている。これには東電が反発している。過剰な経営介入で民間活力を奪うのは本末転倒だ。国による短兵急な経営支配は避けるべきだ。
もちろん、公的支援を受けている東電の経営に、国が一定の関与をして、合理化などを進めていかなければならない。事業計画案で今後10年の経費節減を従来の2・6兆円から3兆円以上に上積みしているのは妥当といえる。
それでも廃炉や除染の費用を賄い切れまい。電力事業の収益向上が不可欠だ。そのため、原発の早期再稼働が必要だ。一定の電気料金値上げも仕方なかろう。
ところが、値上げを巡る不親切な説明など東電の失態で逆風は強まった。徹底した意識改革なしに利用者らの理解は得られない。
事業計画には、火力発電所売却や、発電、送配電など事業別の社内カンパニー制導入も盛り込まれる方向という。しかし、発電所の切り売りや組織の分断は、電力の一貫供給体制を綻ばせ、事業基盤の強化に逆行する恐れもある。
東電の組織再編を突破口に、発送電分離など電力改革に道を開きたいとする、経産省などの思惑がうかがえる。業界全体にかかわるテーマは東電問題と切り離し、じっくり議論すべきだ。
賠償や廃炉費用が巨額になれば東電の返済は何十年も続く。将来展望が開けず人材が流出し、電力供給体制も揺らぎかねない。
原発事故は、原子力政策を推進した政府の責任も重い。東電だけに負担を押しつける制度を改め、政府の責任を明確にすべきだ。
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