特捜部の威信や自らの地位を守るための犯行であり、刑事司法に悪影響をもたらした――。
大阪地検特捜部で起きた証拠改ざん事件で、当時の大坪弘道(ひろみち)部長と佐賀元明(もとあき)副部長に対し、大阪地裁は懲役1年6カ月執行猶予3年の判決を言い渡した。その際の裁判所の指摘である。
巨悪を暴くはずの特捜検察の組織ぐるみの犯罪であり、それを身内の最高検が摘発するという例を見ない不祥事だった。
判決によると、厚生労働省の村木厚子さんの無罪が確定した郵便不正事件で、部長らは主任検事が証拠を検察に有利なように書き換えたのを知りながら、その事実を隠していた。それが犯人隠避の罪に問われた。
証拠改ざんの疑惑が表面化する発端は、村木さんの初公判だった。問題の証拠が検察の主張と矛盾することを弁護側が指摘したのだ。
その直後に改ざん疑惑は副部長に伝わり、部長にも報告された。しかし証拠に手をつけたことを知りながら、それを解明することなく公判を続けた。
立ち止まれる機会は幾度かあった。だが、捜査と公判にかかわったほかの検事らも目をつぶってしまった。
改ざんがわかった時点で誠実に対応していれば、村木さんの無実はもっと早く証明されたはずだ。
この事件を検証した最高検が、報告書で「引き返す勇気」の大切さを説いたのは、そうした反省からだった。
一方で最高検は、部長が村木さんの摘発を強く求め、捜査に消極的な意見を嫌ったことが改ざん事件の背景にあると指摘してきた。
だが、個人の資質のせいにして済ませられる話ではない。問題は検察の体質そのものにもあったのではないか。
不都合な証拠に目をくれず、あらかじめ描いた構図に沿って捜査を進め、否認しても聴く耳をもたない。村木さんの冤罪(えんざい)を生んだ背景には、そんな捜査手法があった。
判決は量刑を述べる中で「検察組織の病弊ともいうべき特捜部の体質が生んだ犯行」と指摘して、執行猶予をつけた理由にあげた。
検察の体質そのものが裁かれたと受け止めるべきだ。大阪だけの話ではない。
最高検は再発防止策として、内部監査や決裁体制を強化し、取り調べの録音・録画の範囲拡大などを打ち出している。
そうした改革を実質の伴うものにするしか、国民の信頼を取り戻すことはできない。
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