元特捜幹部有罪 検察全体に反省迫った

朝日新聞 2012年04月01日

特捜部長有罪 検察の体質も裁かれた

特捜部の威信や自らの地位を守るための犯行であり、刑事司法に悪影響をもたらした――。

大阪地検特捜部で起きた証拠改ざん事件で、当時の大坪弘道(ひろみち)部長と佐賀元明(もとあき)副部長に対し、大阪地裁は懲役1年6カ月執行猶予3年の判決を言い渡した。その際の裁判所の指摘である。

巨悪を暴くはずの特捜検察の組織ぐるみの犯罪であり、それを身内の最高検が摘発するという例を見ない不祥事だった。

判決によると、厚生労働省の村木厚子さんの無罪が確定した郵便不正事件で、部長らは主任検事が証拠を検察に有利なように書き換えたのを知りながら、その事実を隠していた。それが犯人隠避の罪に問われた。

証拠改ざんの疑惑が表面化する発端は、村木さんの初公判だった。問題の証拠が検察の主張と矛盾することを弁護側が指摘したのだ。

その直後に改ざん疑惑は副部長に伝わり、部長にも報告された。しかし証拠に手をつけたことを知りながら、それを解明することなく公判を続けた。

立ち止まれる機会は幾度かあった。だが、捜査と公判にかかわったほかの検事らも目をつぶってしまった。

改ざんがわかった時点で誠実に対応していれば、村木さんの無実はもっと早く証明されたはずだ。

この事件を検証した最高検が、報告書で「引き返す勇気」の大切さを説いたのは、そうした反省からだった。

一方で最高検は、部長が村木さんの摘発を強く求め、捜査に消極的な意見を嫌ったことが改ざん事件の背景にあると指摘してきた。

だが、個人の資質のせいにして済ませられる話ではない。問題は検察の体質そのものにもあったのではないか。

不都合な証拠に目をくれず、あらかじめ描いた構図に沿って捜査を進め、否認しても聴く耳をもたない。村木さんの冤罪(えんざい)を生んだ背景には、そんな捜査手法があった。

判決は量刑を述べる中で「検察組織の病弊ともいうべき特捜部の体質が生んだ犯行」と指摘して、執行猶予をつけた理由にあげた。

検察の体質そのものが裁かれたと受け止めるべきだ。大阪だけの話ではない。

最高検は再発防止策として、内部監査や決裁体制を強化し、取り調べの録音・録画の範囲拡大などを打ち出している。

そうした改革を実質の伴うものにするしか、国民の信頼を取り戻すことはできない。

毎日新聞 2012年04月01日

元特捜幹部有罪 検察全体に反省迫った

「検察組織への社会の信頼を大きく損ねた責任は重いが、組織の病弊が生み出したともいえる」。大阪地検特捜部の証拠改ざん・隠蔽(いんぺい)事件の判決で、大阪地裁はそう指摘した。

犯人隠避罪で有罪を言い渡されたのは元特捜部長の大坪弘道被告と、元副部長の佐賀元明被告だ。

郵便不正事件で、特捜部は09年6月、実態のない障害者団体向けの偽証明書作成を部下に指示したとして、当時の厚生労働省局長の村木厚子さんを逮捕し、その後起訴した。

一方、主任検事だった前田恒彦元検事は、翌7月、検察のストーリーに沿うように、厚労省係長宅から押収したフロッピーディスクの偽証明書データ作成日時を改ざんしたとされる。大坪、佐賀両被告がその報告を受けたのは、村木さんの公判が始まった後の10年1~2月のことだ。

特捜部の組織防衛と保身のため、両被告は誤って書き換えたことにするよう前田元検事に指示した。同僚検事には口止めし、検事正ら上司にはうその報告をして改ざんが表面化しないようにした--。検察は事件の構図をそう描いた。

判決は、こうした検察側の主張をおおむね認めた。

その一方、判決は返す刀で検察の体質を厳しく批判した。

「特捜部の威信や組織防衛を過度に重要視する風潮が、特捜部内、ひいては検察庁部内にあったことは否定できない」「起訴した以上は有罪を得なければならないとの思いから冷静な判断ができなくなるといった偏った考え方が特捜部内に根付いていた」「検察庁内部における非違行為の監視態勢に不備があった」などと指摘したのである。

この事件をきっかけに、検察は第三者機関の提言を受け、検察改革に着手した。今もそのさなかにある。だが、前途は険しい。

陸山会事件では、東京地検特捜部の検事が、捜査報告書に虚偽の記載をした問題が表面化した。また、同事件で元秘書の供述調書の大半の証拠採用を却下した決定で、東京地裁は組織的に違法・不当な取り調べが行われていたと指摘した。

組織やチェック体制の見直し、教育の充実、さらに取り調べの可視化など改革の中身は多岐にわたる。だが、最も大切なのは、「公益の代表者」としての検察官の役割を原点に返って自覚することだろう。

検察官は、逮捕や起訴といった強大な権限を持つ。昨年定めた「検察の理念」では、権限行使が独善に陥らないこと、謙虚な姿勢を保つべきことなどをうたった。まさに、今回の地裁判決の指摘と重なる部分だ。検察は、組織全体が断罪されたと受け止め、改革を進めねばならない。

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