消費増税法案 「本気度」を疑う修正だ

朝日新聞 2012年03月31日

税制改革の法案提出 やはり消費増税は必要だ

政府が消費増税を柱とする税制改革法案を国会に提出した。

消費税率を今の5%から14年4月に8%へ、15年10月には10%へと引き上げる。税収は社会保障の財源とする。

高齢化が急速に進むなか、社会保障を少しでも安定させ、先進国の中で最悪の財政を立て直していく。その第一歩として、消費増税が必要だ。私たちはそう考える。

しかし、国会でも、国民の間でも異論が絶えない。

まず、こんな疑念である。

毎日新聞 2012年03月31日

消費増税法案決定 民・自合意に全力挙げよ

消費増税関連法案を政府は閣議決定した。野田佳彦首相が強調していた年度内の国会提出にようやくこぎ着けたが「ねじれ国会」のハードルに加え、民主党内にも造反の動きを抱え前途は多難だ。

小沢一郎元代表に近い複数の民主党議員が政務三役の辞表を提出、国民新党も事実上分裂するなど与党に早くも混乱が生じている。首相は党分裂も辞さぬ覚悟で国会審議にのぞむ必要がある。自民党も合意形成に協力し法案の足らざる点を改め、2大政党の責任を果たす局面である。

首相は30日夕の記者会見で「(国会に)提出した以上は全力で成立を期す」と強調、「政策のスクラムを組むことは可能だ」と野党との合意に期待を示した。

首相はさきに「政治生命を懸ける」とも明言した。民主党内には早期の衆院解散を避ける思惑から、決着を次期国会以降に先送りさせようとする動きも根強いだけに、退路を断った自らの発言は重い。

首相が望んだ野党との協議は実現しなかったが、法案の国会提出にこぎ着けたことは確かに一歩前進だ。だが、足元では理解しがたい混乱が続いている。

とりわけ、国民新党のドタバタは醜態だ。増税反対派の亀井静香代表は連立離脱を宣言、これに対し自見庄三郎金融・郵政改革担当相は法案に署名するという正反対の対応で党は事実上分裂した。

ひとつの政党に与党議員と野党議員が同居する状態が許されていいわけがない。早急に党の意思統一をはかれないようでは、政治がモラルハザードを来してしまう。

それにも増して深刻なのが民主党内の状況だ。46時間も事前審査で議論を尽くし、「景気弾力条項」に経済成長の数値目標を記すなどの修正を行ったにもかかわらず、対立がいっこうに収束しない。

小沢元代表は党の手続きに「強引」と異を唱え、グループ議員は政務三役の辞表を出すなど倒閣まがいの動きをしている。消費増税は政権を懸けたテーマであり、党にとどまる以上は決定に従うべきだ。現段階で増税に反対するのであれば「では、どうするか」をより具体的に説明しなくては無責任に過ぎる。

衆院の採決で大量造反が出れば参院はおろか、与党単独による法案の衆院通過すらおぼつかないのは事実だ。だが、首相が優先すべきは野党との合意形成だ。これ以上慎重派に安易な譲歩をすべきではあるまい。

民主党以上に国会での対応が問われるのが野党、自民党である。

谷垣禎一総裁は首相に衆院解散を求め、選挙を経れば政策合意に柔軟に対応する用意を示している。だが、消費税率の10%への引き上げは自民もまた、公約に掲げていた。

解散戦略を優先するあまり、消費増税法案を放置したまま対決姿勢をとり続ける道を選ぶべきではない。早期の審議入りに応じ、堂々と議論を尽くすことをまずは求めたい。

そのうえで政府案の不備を改めるのが責任ある野党としての役割となる。社会保障の年金改革の将来像について、民主党は最低保障年金制度の具体像も含め、説得力ある説明ができていない。

複数税率をはじめとする負担軽減策、低所得者対策の検討も不十分だ。残されるさまざまな課題を建設的な立場からただすことが、かつての与党である自民、公明両党の責任のはずだ。

衆院議員の任期満了が近づくほど、民主、自民両党の協調は難しさを増す。民主党の岡田克也副総理は自民党幹部に大連立構想を打診したという。自民の一部に呼応する意見もあるが、現実的ではあるまい。

消費増税は本来、民意を問うに足る重大なテーマだ。だが、政治を前に進めていくことの大切さも軽視できない。

民主、自民両党が合意して法案を成立させたうえで首相が衆院を解散し、国民の審判を仰ぐいわゆる「話し合い解散」も選択肢ではないか。もちろん、十分な政策協議が行われ、法案に必要な修正が加えられることが前提となる。

各種の世論調査をみる限り、消費増税をめぐる国民の視線は依然として厳しい。

社会保障の維持がこのままでは難しいと多くの人が認めながら増税への理解がなかなか広がらない背景には、民主党が政権交代にあたり消費増税はしないと事実上約束していたことへの不信がある。

社会保障の将来像への不安、不徹底な行革への不満も根強い。首相がこれまでの党の見解の変遷についてより率直に国民に謝罪すべきなのは当然だ。

「決められない政治」が印象づけられ民主、自民両党の政党支持率は低迷している。橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」が次期衆院選に候補を大量擁立する準備を本格化、既成政党の脅威となっている。

国民の納得できる成果を政党が示せるかが今こそ、問われている。政界の再編にすら波及しかねない局面だ。最後に試されるのは首相、谷垣両党首の力量である。

読売新聞 2012年03月31日

消費税法案提出 首相は審議入りへ環境整えよ

◆野党と「政策スクラム」形成を◆

政府が、消費税率引き上げ関連法案を閣議決定し、国会に提出した。

野田首相が終始ぶれずに、年度内に法案を決定したことは評価したい。

首相は、記者会見で、「大局に立つなら、野党と、政策のスクラムを組むことは十分可能である」と語り、野党に改めて協力を呼び掛けた。

だが、首相が「政治生命をかける」とまで公言した法案は、成立どころか、審議入りのメドさえ立っていない。政府と民主党はまず、自民、公明両党が法案を巡る協議に応じるための環境作りに、全力を注がなければならない。

◆複数税率も検討課題だ◆

法案は、消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%へ2段階で引き上げることが柱だ。

国会が現行の5%への引き上げを決めてから18年。この間、財政の悪化で、国と地方の債務残高は膨れあがり、11年度末には過去最悪の約900兆円に達する。

財政再建には徹底的な歳出削減が不可欠だが、行政のスリム化だけでは到底追いつかない。

結局、安定財源である消費税の税率引き上げは避けて通れない道である。

法案には、景気弾力条項として「名目3%程度、実質2%程度」の経済成長率を目指す施策を実施する、と明記された。

首相が、これに関連し、「税率引き上げの前提条件ではない」と述べたのは当然である。

この20年間の名目成長率はほぼゼロであり、達成は容易ではない。無論、政府は経済成長に努力すべきだ。しかし、この目標を、反対派が増税阻止の根拠に使おうとしても認めてはなるまい。

低所得者対策として、法案は、減税や現金給付を行う「給付付き税額控除」や、社会保障の合計自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」などを盛り込んだ。

民主党内には、大規模な対策を求める声があるが、必要以上に規模を膨らませ、ばらまき色の強い内容にしないことが大切だ。

欧州では、家計負担を軽くするため、食料品など生活必需品の税率を低く抑える複数税率を採用している。新聞や書籍も税率をゼロや大幅に低くする国が多い。複数税率導入も検討すべきだろう。

◆民主は大胆に歩み寄れ◆

法案の閣議決定にあたり、国民新党は、亀井代表が連立離脱を宣言した。これに同調しない自見金融相らは政権に残留した。分裂状態に陥ったのはやむを得ない。

民主党の小沢一郎・元代表のグループの一部議員は、「閣議決定は認められない」として、政府や党の役職の辞表を提出した。民主党内の亀裂の深さを改めて浮き彫りにしたと言える。

衆院での法案採決が、政治的には大きなヤマ場となる。党執行部は、衆院での採決に向け、党内の引き締めを図ることが重要だ。

同時並行で、法案成立に不可欠な自民、公明両党の協力を得る努力を尽くさねばならない。

自公両党が衆院段階で法案に反対すれば、参院で賛成に転じる可能性は小さいからだ。

膨大な財源が必要な「最低保障年金」導入など、民主党の新年金制度案に対しては野党から強い批判がある。

自公政権で導入された後期高齢者医療制度を廃止するとの方針も、制度の継続を望む自治体の反発で行き詰まっている。

ともに民主党が政権公約(マニフェスト)で掲げた政策だが、その実現にこだわるべきではない。撤回や大幅修正など、野党側に大胆に歩み寄る決断が必要だ。

民自公3党の話し合いで、子ども手当に代わる新児童手当創設や郵政民営化法改正が決まった。こうした合意形成を広げることが、消費税率引き上げ法案の審議入りにもプラスに働く。

◆自民も協議に応じよ◆

消費税率の10%への引き上げでは、民主党と自民党が足並みをそろえている。この機をみすみす逃してはならない。

自民党の谷垣総裁は、法案成立前の衆院解散・総選挙を求める姿勢を崩していない。

だが、法案を成立させた後の衆院解散という展開は、自公両党にとって決して不利益ではないはずだ。こうした主張は自民党のベテラン議員に少なくない。

伊吹文明・元幹事長は「国民のために必要なことを一刻も早くやるべきだ」として、政府・与党との法案修正協議を促している。

自民党は対案を示し、与野党協議に臨んでもらいたい。協議の過程で民自公3党の間に信頼関係を積み上げることが肝要である。

朝日新聞 2012年03月29日

増税法案了承 批判だけでは無責任だ

民主党が、消費増税法案の国会への提出を了承した。

昨年末に続いて、またも延々と論議を重ねた末にようやく収拾した。

何はともあれ半歩前進だ。

最大の焦点は、経済成長の数値目標の達成を、増税の条件とするかどうかだった。

結局、名目3%、実質2%程度の成長をめざすと盛り込む一方で、それが条件だとは書かない玉虫色の決着だ。

できるだけ多くの議員の理解を得なければならないし、法案の骨抜きも避けたい――。

ばらばらな党内を束ねる苦肉の策であることは理解する。

しかし、政権与党の対応としてはお粗末すぎる。

とくに増税による負担を国民に強いる法律に、一読して意味がわからない文言を記そうという感覚が信じがたい。法律のあるべき姿からは、ほど遠い。

執行部はもっと毅然(きぜん)とした態度を貫くべきだった。

なにしろ、バブル経済後、名目3%に達したことなどない。そのうえ万一、国債に十分な買い手がつかなくなれば、「3%成長してから」などと言ってはいられない。しょせん、一つの指標で増税の是非を決めようという考え方に無理がある。

もちろん、増税「慎重」派の主張に耳を傾けるべき項目はたくさんある。政府は経済成長にも、むだの削減にも取り組まなければならない。

ただ、これまでも「経済が好転してからだ」「むだを省いてからだ」と先送りを重ねてきた結果が、1千兆円に迫る借金の山なのである。

この現実に、小沢一郎元代表ら、現時点での増税に異論を唱える議員はどう向き合うのか。

小沢氏は、むだの削減で16兆8千億円の財源を確保する党の公約づくりを主導し、いまも同様の発言を繰り返している。

いまさら、なぜ幹事長時代にやらなかったのかは問うまい。だが、いまからでも、どの予算をどのくらい切るのかを具体的に言ってほしい。

歳出削減は痛みを伴う。だれが、どれほど痛むのかをあいまいにしたまま、財源を生む打ち出の小づちがあるかのように言い募るのは不誠実だ。

法案採決の際に、またぞろ同じような反対論を蒸し返す議員はいるだろう。

しかし、具体的で理にかなった提案をせずに、成長幻想やむだ削減を盾にとるのは「反対のための反対」でしかない。

民主党は政権与党として、もっと建設的な議論をしていく責任がある。

毎日新聞 2012年03月29日

消費増税法案 「本気度」を疑う修正だ

何ともスッキリしない「一任」決着である。民主党による消費増税法案の事前審査が、連夜の長時間協議の末、わかりにくい修正案を取り入れる形で終結した。増税慎重・反対派に配慮した結果ではあるが、事前審査で法案の内容が改善されたとはとても言い難い。

しかも、度重なる譲歩の一方で、党内の対立はむしろ深まった感がある。果たして、約46時間も審査に費やし、修正に修正を加える価値があったのかと思わずにはいられない。

最大の争点は、増税実施の前提条件として景気の回復を数値で示すかどうかだった。国内総生産(GDP)の伸び率が名目で3%、物価を勘案した実質で2%となることを条件に盛り込むよう慎重・反対派が主張。これらの数値を条件にすれば、増税は困難になると懸念する政府・民主党執行部が拒否し、難航した。

そこで政府・党執行部は「経済状況の好転」を増税条件と認め、デフレ状態から脱却するための措置もとるという修正案を提示した。大幅な譲歩だが、それでも合意に至らず、さらに修正して、「名目3%程度、実質2%程度」の数値を直接条件とは解釈し難い表現ながら明記した。

だがこのままでは、将来、増税できる経済状況か否かで再び紛糾する恐れがある。「2020年度までの平均成長率が名目で3%、実質で2%となるよう目指す」というのは、もともと政府が閣議決定した新成長戦略の目標だ。とはいえ、早く目標に近づくよう「総合的な施策を講ずる」としたことで、反対派に「目標に近づいていない」「施策が不十分」との主張を許す余地を作った。

法案が閣議決定されれば、いよいよ国会で野党との論戦が始まる。原案から後退した部分の改良も含め、法案がよりよい内容で可決されるよう、野党の提案にも期待したい。

一方、民主党の増税反対派が抵抗する中での協議打ち切りとなったことで、法案採決までさまざまな要求が続く可能性がある。もちろん、詰めるべきところは詰めてもらいたいが、法案を通すための安易な“ばらまき”は許されない。

例えば、当面の低所得者支援で、「4000億円」など現金を給付する案があるが、軽減税率など他の選択肢も併せて検討すべきだろう。

問われているのは、何のため増税をするのか、本気で税制と社会保障を改革する意思があるのかという根源的なものである。片や増税といいながら同時にばらまき財政を行ったり、さまざまな実施条件を付けて増税の見通しが立たない状況を作ったり、というのでは改革の本気度に疑問符が付くばかりだ。国民からも市場からも信認が得られまい。

読売新聞 2012年03月29日

消費税法案了承 反対派も党決定を尊重せよ

連夜の激論を経て、民主党がようやく消費税率引き上げ関連法案を了承した。法案は30日にも閣議決定される。

党内の意見集約に手こずったのは、民主党の未熟さを物語るが、当初の予定通り、月内に結論を出したことは前向きに評価したい。

焦点となっていた景気弾力条項は「経済状況を好転させる」ことを増税の条件とした。

反対派は、さらに、数値目標を条件に加えるよう強く求めたが、執行部は、増税が困難になりかねないことから、最後まで拒んだ。妥当な判断である。

ただ、法案には、経済の活性化に向けて、「名目成長率3%、実質成長率2%」程度を目指す、と明記した。反対派との決定的対立を避けるための妥協と言える。

これは、政府が新成長戦略で掲げた目標と同じであり、従来の政府方針を確認したに過ぎない。野田首相は国会審議で、「数値目標は増税の条件ではない」と明確に説明する必要がある。

低所得者対策としては、減税や現金給付を行う「給付付き税額控除」や、医療と介護、保育費などの自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」を法案に追加した。制度導入までの間、臨時の給付措置も実施するという。

増税の円滑な実施には、低所得者への一定の配慮が欠かせない。だが、「ばらまき色」が強くなるのは問題だ。今後の検討に当たっては、増税による財政再建効果の減殺や、制度の複雑化を招かぬよう配慮してもらいたい。

再増税に関する条項は、削除された。2015年の10%への引き上げを最優先するために、やむを得ない判断と言えるだろう。

社会保険料と税の徴収体制を強化するとの理由で、「歳入庁創設」について作業を進める、とした点も疑問だ。こうした組織の在り方は、この法案に絡めず別個に議論すべきではないか。

昨夏の代表選以来、民主党は消費税増税の方針を何度も確認してきた。法案の事前審査に50時間近くも費やしたのは、昨秋の環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る党内論議に匹敵する。

党執行部が丁寧に手順を踏んできたにもかかわらず、小沢一郎・元代表のグループの一部議員らは「法案は認められない。採決時が次の勝負だ」としている。

政府・民主三役会議が法案提出の方針を決定した以上、今後も反対し続けるというなら、それなりの覚悟が必要だ。

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