◆野党と「政策スクラム」形成を◆
政府が、消費税率引き上げ関連法案を閣議決定し、国会に提出した。
野田首相が終始ぶれずに、年度内に法案を決定したことは評価したい。
首相は、記者会見で、「大局に立つなら、野党と、政策のスクラムを組むことは十分可能である」と語り、野党に改めて協力を呼び掛けた。
だが、首相が「政治生命をかける」とまで公言した法案は、成立どころか、審議入りのメドさえ立っていない。政府と民主党はまず、自民、公明両党が法案を巡る協議に応じるための環境作りに、全力を注がなければならない。
◆複数税率も検討課題だ◆
法案は、消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%へ2段階で引き上げることが柱だ。
国会が現行の5%への引き上げを決めてから18年。この間、財政の悪化で、国と地方の債務残高は膨れあがり、11年度末には過去最悪の約900兆円に達する。
財政再建には徹底的な歳出削減が不可欠だが、行政のスリム化だけでは到底追いつかない。
結局、安定財源である消費税の税率引き上げは避けて通れない道である。
法案には、景気弾力条項として「名目3%程度、実質2%程度」の経済成長率を目指す施策を実施する、と明記された。
首相が、これに関連し、「税率引き上げの前提条件ではない」と述べたのは当然である。
この20年間の名目成長率はほぼゼロであり、達成は容易ではない。無論、政府は経済成長に努力すべきだ。しかし、この目標を、反対派が増税阻止の根拠に使おうとしても認めてはなるまい。
低所得者対策として、法案は、減税や現金給付を行う「給付付き税額控除」や、社会保障の合計自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」などを盛り込んだ。
民主党内には、大規模な対策を求める声があるが、必要以上に規模を膨らませ、ばらまき色の強い内容にしないことが大切だ。
欧州では、家計負担を軽くするため、食料品など生活必需品の税率を低く抑える複数税率を採用している。新聞や書籍も税率をゼロや大幅に低くする国が多い。複数税率導入も検討すべきだろう。
◆民主は大胆に歩み寄れ◆
法案の閣議決定にあたり、国民新党は、亀井代表が連立離脱を宣言した。これに同調しない自見金融相らは政権に残留した。分裂状態に陥ったのはやむを得ない。
民主党の小沢一郎・元代表のグループの一部議員は、「閣議決定は認められない」として、政府や党の役職の辞表を提出した。民主党内の亀裂の深さを改めて浮き彫りにしたと言える。
衆院での法案採決が、政治的には大きなヤマ場となる。党執行部は、衆院での採決に向け、党内の引き締めを図ることが重要だ。
同時並行で、法案成立に不可欠な自民、公明両党の協力を得る努力を尽くさねばならない。
自公両党が衆院段階で法案に反対すれば、参院で賛成に転じる可能性は小さいからだ。
膨大な財源が必要な「最低保障年金」導入など、民主党の新年金制度案に対しては野党から強い批判がある。
自公政権で導入された後期高齢者医療制度を廃止するとの方針も、制度の継続を望む自治体の反発で行き詰まっている。
ともに民主党が政権公約(マニフェスト)で掲げた政策だが、その実現にこだわるべきではない。撤回や大幅修正など、野党側に大胆に歩み寄る決断が必要だ。
民自公3党の話し合いで、子ども手当に代わる新児童手当創設や郵政民営化法改正が決まった。こうした合意形成を広げることが、消費税率引き上げ法案の審議入りにもプラスに働く。
◆自民も協議に応じよ◆
消費税率の10%への引き上げでは、民主党と自民党が足並みをそろえている。この機をみすみす逃してはならない。
自民党の谷垣総裁は、法案成立前の衆院解散・総選挙を求める姿勢を崩していない。
だが、法案を成立させた後の衆院解散という展開は、自公両党にとって決して不利益ではないはずだ。こうした主張は自民党のベテラン議員に少なくない。
伊吹文明・元幹事長は「国民のために必要なことを一刻も早くやるべきだ」として、政府・与党との法案修正協議を促している。
自民党は対案を示し、与野党協議に臨んでもらいたい。協議の過程で民自公3党の間に信頼関係を積み上げることが肝要である。
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