核テロ防止 原発事故も教訓に

朝日新聞 2012年03月28日

ソウル核サミット 保有国すべてが削減を

「核のない世界」をめざすと明言した歴史的な「プラハ演説」から約3年。米国のオバマ大統領が今度は、ソウルでの演説で、遠大な目標に向けた新たなステップを示した。

戦略核のさらなる削減交渉をロシアと始めるほか、これまで条約による規制がなかった戦術核の削減にものぞむ考えを示した。核戦力強化を進める中国の軍縮参加も促した。

新興国の台頭、イスラム世界の変動などで世界の安全保障環境は複雑化している。オバマ構想の道のりは今後も平らではないだろう。

だが、核抑止に頼る安全保障は破滅と背中合わせだ。

リスクを直視して、核に頼らぬ平和と安定へと移行してゆく時機を逸すると、やがて誰の手にも負えなくなる危険がある。

それを避ける道しるべとして「プラハ演説」と同様、「ソウル演説」を歓迎する。

戦略核を制限する現在の米ロ条約では、配備核弾頭は1550発が上限だ。米政府内では、1千発以下、場合によっては300発にまで減らす案も検討されているという。日本などの同盟国と協議しながら、安全保障に役立つ軍備管理を速やかに進めてもらいたい。

ロシアは、通常戦力で米欧中心の北大西洋条約機構(NATO)に劣る。対抗して重視するのが、戦略核より飛距離が短く欧州が標的の戦術核だ。これを減らすには、NATOとロシアで戦術核、通常戦力を含めた総合的な軍縮協議が必要だ。

5月に予定されている米ロ首脳会談やNATO首脳会談で、こうした方向に踏み出す必要がある。その試みは、冷戦後も残ってきた冷戦構造からの脱却への引き金ともなりうる。

オバマ氏はソウルでの核保安サミットにあわせて演説した。北朝鮮の核・ミサイル問題、イランの核開発問題への対応を迫られている時期でもある。

核テロ防止や不拡散で国際協力を広めるには、最強の保有国である米国が思い切った核減らしを先導することが大切だ。

米ロが大幅核軍縮に進むとなると、核超大国の軍縮が先決としてきた中国も、自分に関係ないと決め込んではいられない。

財政赤字に悩む米欧諸国が国防予算を縮小せざるを得ない時代に、中国の核戦力強化を見過ごすわけにはいかない。

米ロ、欧州で軍備管理による平和と安全の基盤を固める。同時に東アジアでも軍備管理を地域安定化に生かす。共存共栄のためのグローバルな外交が、一段と重要度を増している。

毎日新聞 2012年03月28日

核安保サミット 日本の存在感がない

なんとも日本の影が薄い国際会議になってしまった。ソウルで26、27の両日開かれた核安全保障サミットでは福島第1原発の事故が重要な討議課題になり、北朝鮮が予告した「衛星打ち上げ」(弾道ミサイル発射)をめぐって関係国の活発な意見交換も行われた。

しかし、野田佳彦首相のソウル滞在は26日夜から1日足らず。消費税増税の問題で頭がいっぱいだったのか、米中などの首脳と短い「懇談」をしただけで早々と韓国を後にした。25日にソウルに着いたオバマ米大統領が韓中露などの首脳と会談し、北朝鮮との軍事境界線がある非武装地帯も視察して金正恩(キムジョンウン)政権に自制を呼びかけたのとは対照的だ。

滞在が長ければいいというものではない。だが、野田首相は北朝鮮の核・ミサイルに対する日本の危機感や、原発事故を教訓として核テロ防止を図る日本の決意を、十分な存在感をもって世界に発信できたか、はなはだ疑問と言わざるを得ない。

今回の核サミットは2010年のワシントン・サミットに続いて2回目で、50を超える国・地域が参加した。核物質などがテロ組織の手に渡るのを防ぐとともに、原子力施設をテロから守るのが主な目的だ。地震と津波の後で全電源を喪失した福島第1原発の事故も、テロ行為で同じような状況を引き起こせるとして討議のテーマに加えられた。

今後の対策として日本は「想定外を想定する」重要性を訴え、電源や放射線防護に関する装備増強、警察と陸上自衛隊、海上保安庁と海上自衛隊による共同訓練の実施、サイバー攻撃への対策などを表明したが、踏み込み不足の印象は否めない。

北朝鮮による日本人拉致は日本の原発攻撃への準備だったとの見方さえある。日本の原発が北朝鮮のミサイルに被弾する、あるいは日本海側の原発が乗っ取られるといった事態も、決して「想定外」ではない。核・ミサイルだけでなく核テロでも北朝鮮が脅威になっているのだ。

サミット閉幕時に発表されたソウル・コミュニケは、核テロを国際社会の「最大の脅威の一つ」と位置付け、福島第1原発事故を受けて原子力の安全保障に取り組む「持続的な努力」の必要性を訴えた。核物質などの出所を特定する「核鑑識」の推進も意義深い取り組みである。

日本人にとって核テロはまだまだ現実感を伴わないかもしれないが、原因はどうあれ、私たちは原子力施設が制御不能に陥る恐ろしさを体験してきた。この体験を国際社会と共有し、恐るべき核テロの防止に役立てるべきだ。核テロでも、東アジアの安全保障でも、日本の積極的な関与が問われている。

読売新聞 2012年03月28日

核サミット声明 原発の防護体制強化を急げ

原子力施設では、自然災害への備えに万全を期すとともに、テロ攻撃から重要設備や核物質、情報などを防護する核セキュリティー対策を強化することが急務である。

韓国で開かれていた第2回核安全サミットが、「福島の事故に留意し、原子力安全と核セキュリティーの問題に一貫性を持って取り組む持続的な努力」を求める共同声明を採択した。

声明は、「緊急事態への効果的な備えと対応、被害軽減能力」を維持する必要性も強調している。

東京電力福島第一原子力発電所の事故は、全電源を喪失した際の弱点をさらけ出した。この事故が、北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射問題と並ぶサミットの大きな関心事となったのは、事態の重大性から当然と言える。

野田首相は全体討議で、原発事故を踏まえ、国内原子力施設の(ぜい)(じゃく)性を克服するための具体策を表明した。全電源喪失を想定した電源装置の増強や、放射能漏れ事故時でも即応できる防護車・防護服など装備の充実である。

さらに、現場での対処では「異なる組織間の連携が欠かせない」として、今後、警察と陸上自衛隊、海上保安庁と海上自衛隊の共同訓練を実施する考えを示した。

施設の警備体制の強化や、事故時の対処能力を向上させるためには、警察や海保に加え、自衛隊を活用することが必要である。

事故の収束と原発の再稼働に取り組まねばならない日本にとっては重要な課題だ。早急に実行に移して、信頼回復に全力を挙げてもらいたい。

原子力の安全性向上の面で、特に急がれるのはテロ対策だ。原発事故で「原子力施設へのテロリストの関心が高まった」と、内閣府の原子力委員会は今月まとめた報告書で指摘している。

電源確保や警備体制の強化にとどまらず、炉心などの冷却機能の向上も喫緊の課題だ。

各地の原子炉建屋内に、使用済み核燃料を大量貯蔵している現状も、放置できない。専用貯蔵施設を敷地内などに確保するといった対策を促進すべきだ。

原子力災害の影響は国境を越えて広範囲に及ぶ。

日本、中国、韓国はいずれも沿岸部に多くの原発を有する。事故対策で、日中韓は協力体制を構築する必要があろう。

想定外の事態に対処が遅れた福島第一原発事故の手痛い教訓を関係国が共有し、原子力の平和利用のリスク低減に生かしたい。

朝日新聞 2012年03月28日

ソウル核サミット 日本外交の不在を憂う

いやはや、ここまで日本外交の「不在」ぶりを目の当たりにすると、残念を通り越して空しくなる。

おととい、核保安サミット出席のため、各国の首脳がソウルに集った。オバマ米大統領、胡錦濤・中国国家主席、メドベージェフ・ロシア大統領――。

李明博・韓国大統領らとの個別会談で旧交を温めあい、北朝鮮の「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射について、懸念を表明した。

胡主席は「朝鮮半島の緊張緩和に逆らう行為を望まない」と踏み込み、メドベージェフ大統領は「国連安保理決議違反だ」と明確に指摘した。

各国の協調で、かつてない北朝鮮包囲網が敷かれつつある。北朝鮮の打ち上げに、外交力で圧力をかけたことは確かだ。

そのころ、野田首相は国会にいた。午前9時から午後5時まで、参院予算委員会で与野党議員の質問に答えていた。ソウルに向かったのは夜になってからだった。

首相はきのう、57の国や国際機関が参加した席で、福島第一原発の事故への取り組みなどを説明し、イランや北朝鮮の核開発への憂慮を表明した。

だが、オバマ大統領ら米中韓ロなど各国首脳と言葉を交わしたのは、会合の合間の立ち話だけだった。

午後には、あわただしく帰国した。夜に予定されていた消費増税法案をめぐる民主党の会議に備えるためだ。

各国の外交力と、内向きな日本――。この違いは何なのだ。

もともと、野田首相は核サミットの主人公のひとりになって当然だったはずだ。

日本は、これだけの原発事故を経験しているのだ。世界と共有すべき教訓も、ともに解決していくべき課題も山ほどある。北朝鮮のミサイルに対しては、最も切迫した脅威を受ける国ではないか。

それなのに、首脳たちとひざ詰めで話し合う機会を、みすみす逃してしまった。

野田政権は参院では少数与党であり、新年度予算を早く成立させるには、野党の国会出席要求をのまざるを得ない事情があるのはわかる。

だが、それにしてもである。今回の核サミットに、政府・与党が熱意を持っていれば、国会審議を丸2日間休んで、ソウルに飛ぶこともできたはずだ。

毎年、首相が代わる日本の国際社会での存在感は小さくなるばかりだ。それだけに、隣国での晴れ舞台を活用できない日本外交が、何とも歯がゆい。

読売新聞 2012年03月27日

核サミット開幕 北朝鮮「衛星」阻止へ包囲網を

核テロの防止を目指して、第2回核安全サミットが、韓国の首都ソウルで始まった。

世界53か国の首脳や閣僚、国連など4国際機関の代表が一堂に集うサミットでは、世界の安全を脅かす危険な芽を丹念につみ取る具体的な取り組みが問われている。

「人工衛星打ち上げ」と称して長距離弾道ミサイル発射を予告した核兵器開発国・北朝鮮に、発射阻止を迫ることは、サミットに参加した首脳たちの責務だ。

オバマ米大統領が李明博・韓国大統領と会談し、発射予告の即時撤回と国際規範の順守を、北朝鮮に求めたのは当然である。

韓国大統領府によれば、中国の胡錦濤国家主席も、李大統領との会談で、北朝鮮に「発射を放棄し、民生の発展に集中するよう」求めている、と述べたという。

今回の発射は、北朝鮮に「弾道ミサイル技術を使用した発射」を禁じた国連安全保障理事会決議に明らかに違反する。「長距離ミサイル発射の一時停止」を明記した先月の米朝合意にも反する。

「衛星打ち上げは、長距離ミサイル発射に含まれない」と北朝鮮は詭弁(きべん)を弄しているが、ここで国際社会が反論しなければ、「衛星」発射にかこつけたミサイル開発を容認するに等しい。射程延伸ばかりか精度の向上につながろう。

すでに中距離ミサイル・ノドンの射程内にある日本にとって、脅威は一層深刻になる。

野田首相は、危機感を持って、北朝鮮の「衛星」ミサイル発射阻止に努めなければならない。

首相は参院予算委員会で、サミット参加国首脳たちと問題意識を共有し、北朝鮮に発射自制を「一緒に働きかけるような試みも行いたい」と述べた。ぜひ、実現に結びつけてもらいたい。

だが、活発な2国間外交を展開している米中などの首脳と比べ、昨夜になって韓国入りした首相の存在感はあまりにも薄い。

参院予算委員会に首相の出席が求められたとは言え、国会が首相外交を損なわせることがあってはなるまい。参院本会議は、北朝鮮に発射自制を求める決議を全会一致で採択した。それを国際連携に広げていくには外交が要る。

北朝鮮は「打ち上げ準備作業」に入ったと発表し、予定通り4月中旬に発射を強行する構えだ。

日本の南西諸島の上空を通過する可能性がある。日本の領域内に本体や部品が落下する万一の事態に備え、政府は速やかに自衛隊に破壊措置命令を発令すべきだ。

朝日新聞 2012年03月25日

核テロ防止 原発事故も教訓に

地上から核戦争の危機が消えたわけではない。ただ、テロ集団による核使用こそが、より現実味のある脅威ではないかとの心配が、「9・11」後の国際社会で強まった。

そこで2年前、オバマ米大統領の呼びかけで、核テロ防止をめざす第1回核保安サミットが開かれた。2回目が26、27の両日、ソウルで開催される。

野田首相も出席予定だ。オバマ米大統領や約50カ国の首脳・閣僚たちと、実効性のある手立てを真剣に考えてもらいたい。

盗難、密売でテロ集団の手に渡った核兵器の爆発が、最も危険な核テロである。原子力施設や放射性物質の輸送車両・船舶を襲って汚染をまき散らすことや、放射性物質を混ぜた爆弾で広範囲に恐怖を巻き起こすテロも、防がなければならない。

第1回サミットでは、核兵器や核物質、原子力施設などの保安について国家が責任をもって対応すること、盗難防止や密輸防止対策で途上国を支援することなどが確認された。

だが現実には、やるべきことがたくさん残っている。

テロ集団と核の関係を遮断するにはまず、「核の闇市場」の監視・摘発をさらに強化することが重要だ。

8年前に、パキスタンのカーン博士を中心とする闇市場が発覚した。その後の国際原子力機関(IAEA)などの調査で、北朝鮮がウラン濃縮技術などを闇市場から得ていた疑いが強まった。イランも闇市場とつながって、ウラン濃縮計画などを進めてきた疑いがある。

核兵器の材料となる高濃縮ウランをつくれる技術や物資の密売が横行する世界は、危険極まりない。国際的な闇ルートの解明や密売組織の追及など、国際社会が協力すべきことは多い。

福島の原発事故は、津波などですべての電源が失われて深刻化した。テロ集団が破壊工作で電源をすべて断てば、大惨事に至る恐れがある。使用済み核燃料を貯蔵するプールのある建物が倒壊すれば、大規模な放射能放出の危険があることも浮き彫りになった。

ソウルに集まる首脳は、原子力施設の事故防止という安全対策と、核テロ防止という保安対策をあわせて改善、強化する政治的決意を表明すべきだ。

事故もテロも「想定外」としないで万全の策を練ることが、福島からの大きな教訓だろう。

日本で原発利用が継続しようがしまいが、放射能の怖さを改めて知った日本は、世界に率先して安全と保安を進める覚悟を表明し、実行すべきだ。

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