AIJ強制調査 徹底解明と厳罰化を

毎日新聞 2012年03月24日

AIJ強制調査 徹底解明と厳罰化を

証券取引等監視委員会が、AIJ投資顧問の刑事告発に向けて、強制調査に乗り出した。一方、監視委員会の勧告を受けて金融庁は、AIJの投資運用会社としての登録を取り消す行政処分を行った。

労働者の老後を支える貴重な年金保険料を預かりながら、不透明で常識を超えた高リスクの運用を行い、1000億円以上の損失を出した責任は重い。さらに、高い利益をあげているように偽り、資金を集め続けたことは極めて悪質だ。処分は当然で、徹底的な実態解明を求めたい。

AIJに運用を委託した企業年金の多くは、私的な積立金を失ったばかりか、国に代わって運用してきた公的年金部分にも穴を開けられた。そうした基金の多くは同業の中小企業が共同で設立したものだ。公的年金の積み立て不足を自力で埋めようとして倒産する企業が出ると、基金に加盟する残りの企業でその分を補わざるを得ず、連鎖倒産が心配されている。そこで公的な救済が政府・民主党内で検討されているようだ。

確かにAIJの顧客基金は被害者だが、「市場環境が悪い時も安定的に利益をあげている」といった宣伝文句をうのみにするなど、大切な年金資産を扱う意識と経験が欠けていたと言われても仕方ない。そのツケを、厚生年金加入者全体の保険料で払うことは公平さを欠き、税金による穴埋めも当然、認められない。

倒産防止の名の下に救済すれば、無責任な高リスクの運用をさらに助長する恐れがある。うまくいけば大もうけ、失敗しても助けてもらえる、との甘えを植え付けるからだ。

一方、AIJ問題を機に、年金の運用に関する規制を強化しようとの動きもあるようだ。しかし、「債券5割以上、国内株3割以下」などと投資比率を定めた規制の復活は決して望ましくない。年金の運用は、自己責任原則を維持すべきだ。

だからといって、何もしないでよいというものではない。

金融庁は、投資顧問会社の情報開示や、チェック態勢の強化などを検討しているようである。必要なことだが、もし最初から顧客や監督当局を欺くつもりで組織的に不正を働こうとする場合は限界がある。

「不正はいずれ発覚し、厳罰にあうから割に合わない」との認識を醸成する工夫が必要だろう。

例えばAIJの容疑(金融商品取引法の「契約の偽計」)の場合、有罪となった際の罰則は最大で懲役3年だ。刑法の詐欺罪でも懲役10年以下である。金融犯罪の刑罰はもっと重くすべきではないか。また、米国のように、有力情報を当局にもたらした通報者に報奨金を出す制度も検討の価値がありそうだ。

読売新聞 2012年03月25日

AIJ問題 厚年基金の財務改善が急務だ

巨額の年金資産を消失させたAIJ投資顧問について、証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反の容疑で強制調査に着手した。

ハイリスクの投資を繰り返し、損失を膨らませながら、「安定的な収益が得られる」と偽って勧誘し、運用委託契約を結ばせた疑いが持たれている。集めた約1500億円の資金のうち1200億円を失ったという。

詐欺まがいの極めて悪質な行為である。刑事告発を視野に調査を進める監視委には、厳正な責任追及を求めたい。

AIJ問題では、顧客の大半を占める厚生年金基金の在り方が問われている。

厚年基金は自前の企業年金に加え、国に代わって公的年金の一部も運用し、退職者に支給する。かつては高利回りを確保できたが、近年は株安や低金利で運用益を得られず、年金の給付に必要な積立金が不足している基金が多い。

しかも9割の基金はいまだに運用目標である予定利率を年5・5%の高率に据え置いている。何とか高利回りを達成しようと、AIJの勧誘に飛びついたことが被害を拡大させたと言える。

厚年基金の財務改善が欠かせない。しかし、年金給付額を減額するには年金受給者や従業員の3分の2以上の同意が必要だ。

基金の存続を断念し、解散する場合にも加盟企業など4分の3以上の同意が要件となっている。

民主党内で出ている、年金減額や基金解散の要件の緩和案は検討に値しよう。

AIJに運用委託した全額が焦げ付くと、52の基金で公的年金部分の給付に必要な積立金が足りなくなるという。基金の多くは中小企業で構成されており、不足額を補う経営体力に乏しい。

民主党の一部や厚年基金の中には公的資金による穴埋めを求める声もあるが、これは筋違いだ。

資産運用は自己責任が原則である。損失を被った時だけ救済を受けるというのはおかしい。小宮山厚生労働相が、掛け金を引き上げるなど基金の自助努力による解決を求めたのは当然である。

厚年基金の運用担当者の専門性を高める必要もあろう。厚労省の抽出調査では、約8割の基金で資産運用の経験者が不在だった。

AIJの顧客の46基金に、厚労省や社会保険庁のOBが天下っていたことも問題だ。OB人脈をAIJが顧客開拓に利用したとの指摘がある。天下りと被害拡大の関連も解明しなければならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1003/