朝日新聞 2012年03月27日
原発再稼働 なぜ、結論を急ぐのか
野田政権が原発の再稼働に踏み切ろうとしている。
東京電力の柏崎刈羽原発6号機が定期検査に入り、全国で稼働しているのは、北海道電力の泊3号機1基になった。それも5月5日に止まる予定だ。
「稼働原発ゼロ時代」に向かうなか、原子力安全委員会は関西電力の大飯3、4号機(福井県)について「ストレステストの1次評価は妥当」と認めた。
これを受けて、野田首相と経済産業相ら関係3閣僚が「稼働しても問題はない」と判断し、地元の理解を得る段取りを考えている。
しかし、1次テストは地震や津波に対する原子炉の余裕度を机上でチェックするものにすぎない。
なぜ、福島第一原発で事故が起き、被害の拡大防止に失敗したのか。その詳しい検証は進行中であり、新たな安全基準作りもまだ道半ばだ。
全国の原発では、電源喪失に備えた短期的な対策を講じた程度だ。福島事故で作業員が立てこもった頑丈な免震重要棟も、大飯をはじめ、多くの原発には備わっていない。
安全委自ら、「1次評価だけでは安全性を評価するには不十分」と位置づけているのに、なぜ政治判断を急ぐのか。
首相らが夏の電力不足を心配しているのは言うまでもない。その懸念はわかる。
であれば、まずは電力需給を精査しなければならない。
需要面では、電力使用が前年実績を下回ったら料金を割り引いたり、ピーク時の料金は高くしたりする制度を広げる。いざという時に電力の使用を制限する代わりに、料金を低く抑えている大口顧客との「需給調整契約」を徹底する。
供給面では、企業が持つ自家発電をもっと活用する。各電力会社の送電線を結ぶ連系線を積極的に使い、広域で電力をやりくりする。
こうした対策を講じた場合、本当にどの程度、電力が足りないのか。そのシミュレーションを明らかにするのが、再稼働を判断するための大前提だ。
全国の原発54基のうち53基が停止している背景には、「原発を減らしたい」という多くの人の意思がある。
一方で、電力業界には「大飯をきっかけに順次、原発を再稼働させたい」という思惑が透けてみえる。
野田政権は軸足をどこに置くのか。首相が脱原発依存への大きな道筋を語らないまま、原発の再稼働に動いても、世論の支持は得られない。
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毎日新聞 2012年03月25日
原発再稼働 前のめりは不信を招く
関西電力大飯原発3、4号機の再稼働に向けた政府の動きが進んでいる。内閣府の原子力安全委員会は23日、経済産業省の原子力安全・保安院が「妥当」としたストレステスト(安全評価)の1次評価について、確認作業を終了した。
今後、野田佳彦首相と関係閣僚が再稼働の是非を政治判断した上で、地元の了解を求める見通しだが、前のめりの姿勢には問題がある。
これまでも指摘してきたように、現段階での安全確認には無理がある。ストレステストはもともと原発の弱点をあぶり出すものだが、個々の原発を独立に評価する日本のやり方では、それぞれの原発の相対的なリスクがわからない。
ひとつひとつの原発について、何を基準に再稼働してもいいと判断するのか、客観的な基準も今の段階ではない。たとえば、大飯原発3、4号機の評価によると、設計上の想定より1・8倍大きい地震の揺れに襲われても炉心損傷には至らないという。では、1・2倍の揺れでもだいじょうぶという評価だったら、どう判断するのか。
加えて、福島第1原発の事故の検証が終わっていない。それがわからなければ、リスクを見落とす恐れがある。
政府が了解を求める地元の範囲がはっきりしていないのも懸念材料だ。福島第1原発の事故で明らかになったのは、想像以上に広い範囲に放射能汚染が及ぶことだ。政府は、原発の重大事故に備える防災対策の重点地域を従来より広げ、原発から半径30キロとする方針だ。大飯原発の場合、その範囲には福井県の5市町のほか、京都府や滋賀県の一部も含まれる。
これらの地域も含め十分に説明するのは当然だ。「地元」を立地自治体である福井県とおおい町に限るのはおかしい。福島第1原発の事故を踏まえれば少なくとも30キロ圏内の自治体の了解を得る必要がある。政府の消極的な姿勢は改めるべきだ。
この段階で再稼働に踏み切ることについては与党内に異論があることも見すごせない。民主党の原発事故収束対策プロジェクトチームは「政治判断は時期尚早だ」との見解を示している。
今回の評価が、信頼を失った保安院や原子力安全委によってなされていることも、国民の理解を得るのにふさわしい体制とはいえない。本来、新組織の原子力規制庁が再稼働の判断基準を示すべきだ。
さらに基本的な課題は、「今、原発を再稼働しないと社会にどういうリスクがあるのか」を、政府が示すことだ。それをしないままに、再稼働を急ごうとすれば国民の信頼を失い続けることになる。
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