郵政法案成立へ 合理化の加速が必要だ

朝日新聞 2012年03月25日

郵政見直し 真の改革へ再起動を

国会で長くたなざらしになっていた郵政民営化の見直し問題に、一応の決着がつく。自民と公明両党が合意し、与党も同調する見通しだ。

最大の焦点は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式売却だった。両社は、政府が将来も3分の1超の株式を持ち続ける日本郵政の子会社だ。

民営化法では2017年9月末までに全株を売却し、政府との間接的な資本関係を絶って、民間と公平に競争することにしていた。

今回の合意では、売却の期限を設けず、「すべてを処分することを目指す」とし、経営判断に委ねることにした。日本郵政が金融2社の株式の3分の1は維持することを求めていた与党案との折衷である。

郵貯・簡保の完全民営化が後退したのは間違いない。ただ、09年末に成立した株式売却凍結法で経営が縛られ、袋小路にあった郵政改革が再起動するのなら、現状よりはましだ。

経営陣の責任で株式売却の工程表を作り、お目付け役の郵政民営化委員会が厳しく監視し、民間との競争の実態に合わせて不断に見直していくプロセスを作っていくべきだろう。

郵便物を扱う郵便事業会社と窓口業務を担う郵便局会社は合併する。日本郵政本体や金融2社の株式上場の目標をテコに、郵便事業の立て直しや郵便局経営の効率化を進め、金融の収益に過度に依存しない経営構造を築く。国債に偏った資金運用が安泰とはいえなくなった今、喫緊の課題である。

合意には金融の全国一律サービスも盛り込まれたが、過剰な義務づけは避けるべきだ。旧特定郵便局を存続させる名目となり、高コスト体質が温存されては本末転倒である。

株式の売却を考えれば、元官僚が居並ぶ今の経営陣で市場の評価を得るのは難しい。引き受け手探しは大変でも、民営化の理念を体現できる民間経営者をぜひ起用してほしい。

今回の合意の背景には、震災復興のための増税額を日本郵政株の売却益で圧縮することをアピールする狙いとともに、総選挙をにらんで、「郵政票」の囲い込みという政治的思惑が透けてみえる。旧特定郵便局長らの政治力が増すようなら、今後に禍根を残す。

民営化委の田中直毅委員長は郵政グループの経営に関する意見書を野田首相に提出した際の記者会見で、「政治による介入」と「政治への介入」に懸念を示した。重い警告と受け止めなければならない。

毎日新聞 2012年03月24日

郵政法案成立へ 合理化の加速が必要だ

郵政事業のあり方を見直す郵政民営化法改正案が、今国会で成立する見通しになった。

ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の金融2社について、完全民営化をめぐる各党間の対立を踏まえ、政府が影響力を維持する余地を残し、小泉政権の路線を修正する内容だ。

郵政グループはこれまで、政治の混乱の中で経営の方向性を定められず、経営が悪化していたが、ようやく将来像が示された。国民の利便性を維持、向上させるため、経営の合理化を加速させる必要がある。

改正案は自民、公明両党が合意し、民主党も受け入れる見通しだ。

それによると、郵便物を集配する郵便事業会社と、貯金や保険も含めた窓口業務を担う郵便局会社を統合し、ゆうちょ銀行、かんぽ生保、持ち株会社の日本郵政と合わせ4社体制にする。

集配と窓口業務を統合すれば、郵便配達員に貯金を頼んでも「会社が違う」として応じてもらえないといった不便は解消される。業務の効率化も進めやすくなるはずだ。郵便局の合理化などリストラにも積極的に取り組みつつ、全国一律のユニバーサルサービス維持に努めてほしい。

ゆうちょ銀行とかんぽ生保については、日本郵政が100%保有する株式を17年9月末までに売却し、完全民営化するという小泉政権の路線を修正した。両社の株式は「処分することを目指す」ことにして、「売却」から後退させ、達成時期も示さない努力規定に変えた。

政権交代後の政府案では、持ち株会社が両社株3分の1超を保有することとして政府の関与を明確に認めていたのに比べると、自由化論者に歩み寄った格好だ。しかし、グループ内で持ち合うことも可能になり、政府関与の余地を残したといえる。

その結果、「暗黙の政府保証」を背景にした「民業圧迫」の懸念も残る。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加交渉にも影響を与える可能性がある。

一方、郵政グループは、拡大する郵便事業の赤字を金融事業の黒字で穴埋めしてきた。それでもカバーし切れなくなれば、国民負担が生じかねない。民業との調和を図りながら、グループ全体の収益力を向上させる知恵を期待したい。

郵政民営化法が改正されれば、政府が100%保有する日本郵政株を最大3分の2売却し、その利益を東日本大震災の復興財源に充てることが可能になる。それが今回、与野党が歩み寄った背景の一つだ。

しかし、利益の上がらない会社の株が売れるだろうか。復興財源確保のためにも、郵政グループは経営改革を急ぐべきだ。

読売新聞 2012年03月24日

郵政改革合意 サービスの向上が期待できる

難航した郵政改革の見直しが、ようやく実現に向かい始めた。

民主、自民、公明の3党が、今国会で郵政民営化法を改正し、日本郵政グループを現行の5社体制から4社体制に再編することなどで基本合意した。

小泉政権による郵政民営化は、分社による縦割りの弊害が出た。配達の遅れを郵便局に問い合わせても、「配達業務は別会社」という理由で対応が不十分だった例もある。「民営化で不便になった」という利用者の不満は強い。

合意案は、郵便、貯金、保険の3事業を郵便局で一体的に提供する責務を課す。業務の垣根がなくなり、利便性向上が期待できる。与野党は法案審議を着実に進め、早期成立を図ってもらいたい。

政府・与党の郵政改革法案は、実質審議がないまま2年近く“塩漬け”にされた。

事態の打開を主導したのは公明党だ。現行の郵政民営化法を改正する4社体制案を示し、対立する民主、自民両党の間を取り持つ役割を果たした。

民主党が公明党案を支持する姿勢を示した後も、小泉改革にこだわる自民党は抵抗を続けた。公明党が自民党の主張を取り入れて修正し、合意にこぎつけた。

回り道はしたが、民自公3党が建設的な提案と譲歩を積み重ね、政策を前に進めたことは歓迎できる。与野党の合意形成に弾みをつける契機としたい。

合意のかぎは、郵政グループに対する政府出資の扱いだった。

政府が日本郵政に「3分の1超」の出資を残す一方、傘下のゆうちょ銀行とかんぽ生命保険については、全株処分を目指す努力目標を盛り込んだ。自民党の主張に沿い、現行法が定める「完全民営化」の方向性は維持している。

ただし、株式売却の具体的な手順やペースはあいまいだ。株式上場などの手続きを進め、早期に売却を開始すべきである。

ゆうちょ銀とかんぽ生命による住宅ローンやがん保険など新規事業への参入は当面、認可制で歯止めをかける。株式を2分の1以上処分した段階で、規制の緩やかな届け出制に移行するという。

民間の銀行や保険会社には民業圧迫への懸念が強い。売却の進展を待って、業務拡大のハードルを下げる仕組みは妥当といえる。

国民の財産である日本郵政株の売却で、十分な利益を得ることが重要だ。日本郵政は改革をテコに業務の改善を加速し、企業価値を向上させねばならない。

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