地価公示 気がかりな被災地の二極化

朝日新聞 2012年03月23日

被災地の地価 復興への視点を大切に

今年1月1日時点の地価が公示された。全国平均では、住宅地、商業地とも4年連続の下落ながら、下落幅は前年より小さくなった。東日本大震災の影響は限られていたようだ。

しかし、被災地では状況が一変する。

津波で浸水した調査地点は岩手―千葉の5県で99カ所。47カ所は被害が大きく、「取引の参考にならない」と調査が見送られた。残りの52地点でも、前年から27%下落したところを筆頭に落ち込みが目立った。

復興事業では、公示地価をもとに土地の売買価格が決まる。被災者の生活再建は、所有地の値付けで大きく左右される。複数の住宅がまとまって高台などへの移転を目指す防災集団移転では、とりわけそうだ。

移転先の土地の確保と造成は自治体が担い、被災した元の土地も買い上げてくれる。事業費は国が復興交付金などで全額を負担し、自治体を支える。しかし、被災者が移転先の土地を買ったり借りたりする費用や住宅の建築費は自己負担だ。

仕事もままならないなか、土地の買い上げによる収入が頼みの綱となる。

ところが、買い上げ対象の土地は「災害危険区域」に指定され、住宅の建設が原則禁止される。浸水に建築制限が加わり、単純に算定すると、価格が落ち込むことになりかねない。

国土交通省は、被災地一帯のインフラの復旧や復興計画を買い上げ価格に反映するよう、自治体に呼びかけている。最近では、震災前の地価の8割程度を住民に示す自治体が増えてきた。算定の実務にあたる不動産鑑定士を含め、被災者を支える視点を大切にしてほしい。

福島第一原発の事故で住民に避難指示が出ている土地では、データ自体が不足している。半径20キロ以内の警戒区域内の調査地点で、地価公示の作業が見送られたりしたためだ。

政府は近く、避難区域を三つに再編する。このうち、放射線量が年50ミリシーベルト超と高い「帰還困難区域」について、政府の審査会は区域内の不動産を「全損」と判断し、事故前の地価の全額を賠償するよう東京電力に求めた。

ただ、「居住制限区域」(20~50ミリ)や「避難指示解除準備区域」(20ミリ以下)については判断しなかった。

現時点でどの程度地価が下落しているのか、今後の除染作業による回復をどう見込むのか。生活再建に向けた被災者の選択を支えるためにも、早急に算定基準を示す必要がある。

読売新聞 2012年03月23日

地価公示 気がかりな被災地の二極化

地価底入れに向けた兆しはあるものの、反転につながるかどうか、なお不透明と言えよう。

国土交通省が発表した2012年1月1日時点の公示地価は、1年前に比べて全国の住宅地で2・3%、商業地で3・1%下落した。

08年秋のリーマン・ショック以降、4年連続のマイナスとなったが、下落率は2年連続で縮小した。都市部から地方まで、上昇か横ばいに転じた地点が大幅に増えたことが特徴である。

住宅地の需要は底堅く、改善傾向がみられるのは、住宅ローン減税や住宅エコポイントなどの優遇政策の効果だろう。

首都圏マンションの契約率が、好調の目安とされる70%程度で推移しているのも明るい材料だ。

しかし、地価が大幅に落ち込んだ地域も少なくない。楽観は禁物である。日本経済の低迷や円高、欧州債務危機などによる地価の下押し圧力は根強い。

懸念されるのは商業地だ。

都心では今年、大規模オフィスゾーンの開発が相次ぎ、物件の大量供給が見込まれる。一方で需要は長期的な減少傾向にあるため、一段と賃料が下がり、地価下落が長引くことになりかねない。

とくに地方の商業地は、人口減少や地域経済の疲弊などを受け、地価の改善テンポが鈍い。

こうした状況が続けば、企業の資金調達や個人消費に悪影響が広がる。土地デフレの長期化を食い止めることが必要である。

海外投資家も円高定着で日本への不動産投資を縮小している。政府は、円高対策に全力を挙げ、景気回復を図らねばならない。

東日本大震災や原発事故を受けて、被災地の地価も心配だ。

津波被害に見舞われた岩手、宮城両県の沿岸部では、10%以上も下落した地点が目立った。一方、浸水を免れた高台住宅への需要が高まり、地価が上昇に転じる二極化現象が起きている。

全国の住宅地で上昇率の高い上位10地点のうち、9地点を宮城県が占めた。石巻市では60%も急騰したところがあった。

福島県は住宅地、商業地ともに地価は大きく下落した。

液状化被害が大きかった千葉県浦安市の住宅地価が下落に転じるなど、東京湾岸部の物件を敬遠する動きは続いている。

東北の被災地については、投機的な取引を招かないよう、監視を強めるべきだ。地価の二極化を解消するためにも、自治体は街づくり計画の実現を急いでほしい。

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