アフガン大統領 今度こそ公正な選挙を

毎日新聞 2009年10月28日

アフガン大統領 今度こそ公正な選挙を

見守る国際社会としては、はなはだ意気の上がらない選挙ではなかろうか。アフガニスタンの大統領選は1回目の投票で過半数を獲得した候補者がなく、11月7日の決選投票にもつれ込んだ。

しかし、1回目の投票同様、決選投票でも大がかりな選挙不正や、タリバンなどイスラム過激派による妨害工作が予想される。カルザイ現大統領とアブドラ元外相のいずれが当選しても、正当性をめぐる対立は避けられないだろう。

こうした政治的混乱に加えて米欧の部隊はタリバンなど武装勢力との戦いに苦しみ、もはや明確な軍事的勝利は望めないとの悲観論も強まっている。政治と軍事の両面でアフガンに明るい未来を描くのは難しい。

その要因の一つはアフガンのお国柄だろうか。フセイン政権崩壊後に行われたイラクの選挙でも混乱や妨害工作はあった。結果の確定まで時間がかかることも確かにあった。

だが、同じ戦乱の地でもアフガンの選挙はイラクに比べて効率も透明度も低い。8月の第1回投票の結果が発表されたのは、実に2カ月後だ。選管には2500件もの不正告発があった。欧州連合の選挙監視団筋によると、不正の疑いがある票はカルザイ氏側110万票、アブドラ氏側30万票にも上ったという。

当初はカルザイ氏が約54%の票を獲得し、決選投票を待たず当選するとの観測もあった。だが、不正票を除いた得票率は49%台に落ち、実にわずかな差で決選投票が決まった。

その陰に「アフガン民主化」の後ろ盾たる米国の思惑が働いたのは確かだろう。米国の上院議員らはカルザイ、アブドラ両陣営の連立政権を画策して失敗し、決選投票やむなしの空気が強まったとされる。疑惑を持たれたままカルザイ氏が再選されても求心力は望めないからだ。

今度こそ透明な選挙になるよう期待したい。不正行為を極力防ぎ、国民の意思を正しく反映してほしい。選挙はもちろんアフガンの内政問題とはいえ、国際社会も同国の自立のために支援してきた。日本の援助は01年9月から今年3月までに約2000億円に上っている。

国際社会の支援を無駄にしない選挙であってほしい。アフガンに出兵する米欧ではえん戦ムードが強まり、国際的な「支援疲れ」も指摘される昨今、アフガン当局は公正な選挙実施へ懸命に努力する必要があるはずだ。

タリバンが「米国の(民主化)プロセス」妨害を予告する中、不穏な情勢は核兵器を持つパキスタンにも及んでいる。この難局を乗り切るには国際社会の協力が不可欠だ。今回の決選投票はアフガン情勢の行方を占う試金石と心得たい。

読売新聞 2009年10月29日

パキスタン情勢 テロ撲滅に重要な国際連携

パキスタン軍が国内のイスラム武装勢力によるテロを封じ込めるため、今月中旬から、大規模な地上掃討作戦に乗り出している。

隣国アフガニスタンとの国境沿いに広がる山岳地帯に潜伏するとみられる国際テロ組織アル・カーイダと関係がある、武装勢力撲滅を狙った作戦だ。

アフガンで、旧支配勢力タリバンに対し、米軍や国際治安支援部隊が展開する軍事行動に呼応した作戦でもある。

両国に浸透する武装勢力は必ずしも同一の指揮系統にはないが、共闘している可能性が強い。この点でも国際的に連携した作戦が重要となる。

米国などは、武装勢力によるテロで混乱が拡大し、パキスタンの核兵器がテロリストの手に渡る事態を懸念している。核兵器の流出は防がなければならない。

約3万人を動員したパキスタン軍は、中央政府の支配が及ばない国境沿いの部族地域・南ワジリスタン地区に展開している。

今月前半、立て続けに発生した自爆テロ事件の一部に犯行声明を出したイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の本拠地がある地区だ。政府軍は主要勢力であるTTPの指導部解体を狙っている。

首都近郊にある国軍総司令部がTTPの武装グループに襲われたのは初の出来事だった。犯行集団は約20時間後に取り押さえられたが、事件は内外を震撼(しんかん)させた。

今年8月の米軍無人機による攻撃で、TTPの司令官が殺害された。テロ頻発の原因は、後を継いだ新司令官が、報復テロに乗り出したためと見られている。

政府軍の攻勢に対し、武装勢力による学校襲撃や市場でのテロが始まった。現地は間もなく冬を迎え、長期戦の公算が大きい。

米国は、パキスタン国内の道路や学校の建設、医療などの支援策として、今後5年間に75億ドルの拠出を決めた。軍事作戦だけではテロ撲滅は実現できないと考えたからだろう。

今年4月に東京で開催されたパキスタンの国際支援国会合では、31か国が総額50億ドル以上の拠出を誓約した。日本は2年間で10億ドルの供与を表明、医療分野での支援を検討中だ。

米同時テロ後、日本は経済援助の規模を拡大し、債務を繰り延べるなどしてパキスタン支援を続けて来た。今後も実効性のある援助を続け、パキスタンを民生面から支えて行くべきだろう。

産経新聞 2009年10月30日

アフガン情勢 同盟国の苦境強める日本

アフガニスタンで11月7日に予定される大統領選の決選投票をひかえ、首都カブールの国連宿泊施設を狙った襲撃テロで国連職員ら10人以上が死亡するなど、治安が急激に悪化している。隣国パキスタンでもテロが激化した。

国際社会が座視できない事態である。にもかかわらず、米国の同盟国である日本は有効な手立てを打ち出せないでいる。

アフガンの反政府イスラム原理主義勢力タリバンは、襲撃テロについて、決選投票を妨害する「第一歩の攻撃」との犯行声明を出した。アフガン国軍は駐留米軍や国際治安支援部隊(ISAF)とともに、テロ拡大阻止に全力を尽くしてほしい。

決選投票は新政権が腐敗体質を払拭(ふっしょく)し、正統性を確保するためにも乗り切らねばならない。それには、まずは国内の治安の確保だ。8月の選挙時には駐留米軍やISAF、そしてアフガン国軍の計30万人が厳戒態勢を敷いた。それでも投票所を狙うテロが全土で頻発し、多数の死者が出た。

軍、民間ともに犠牲者が過去最悪のペースで増えている状況下での決選投票はテロとの戦いのまさに正念場だ。オバマ米大統領が近く発表するアフガンへの米軍追加増派の抑止効果に期待したい。

アフガンに米国に次ぐ9千人の駐留部隊を派遣している英国のブラウン首相は「他のNATO(北大西洋条約機構)加盟国も応分の負担を引き受けるなら」との条件つきで500人の兵員増派を表明した。「アフガンの安定は英国の安全につながる」との認識だ。

鳩山由紀夫首相は、こうした危機意識を共有してほしい。所信表明演説で首相は「農業支援、元兵士に対する職業訓練、警察機能の強化等」といった民生支援に言及したが、あまりにも現実から遊離した発想ではないか。

治安がこれほど悪化してしまえば、常時軍の護衛を必要とする文民派遣は後退せざるを得なくなるからだ。

米英両国などが大いに感謝しているインド洋補給支援を「単純延長しない」とするのは、今もって合点がいかない。

さきにアフガンとパキスタンを訪問した岡田克也外相も、パキスタン側に「期限切れ後の対応を検討している」と歯切れの悪い返答だった。同盟国の苦境を強めるような無策ではないか。

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