’09衆院選 党首討論 もどかしさだけが残る

朝日新聞 2009年08月13日

09総選挙・党首対決 もっと大きな論点で

歴史的な政権選択選挙に向けた首相候補どうしの一騎打ちとしては、なんとも食い足りない内容だった。

麻生首相と民主党の鳩山代表が「一対一」での討論に臨んだ。それぞれのマニフェストを説明し、年金など社会保障や経済の成長戦略、安全保障など多くのテーマで意見をぶつけ合った。

だが、聞いていた有権者の多くは、靴の上から足をかくようないらだちを味わったのではないか。

首相は長年、政権党として日本の政治を担ってきた自民党の「責任力」を強調した。盛りだくさんのマニフェストがすべて実現されれば、確かに日本は活力のある安心社会に生まれ変われるかもしれない。

だが、それではなぜ、これまでの自民党政権がそれらを実現できなかったのか。今の政治の閉塞(へいそく)状況を招いてしまったのはなぜなのか。そこを語らなければ、いくら新しい政策、意欲を並べられても有権者は納得できまい。

鳩山氏にしても、新しい政治への「チェンジ」を呼びかけたのは分かるが、これまで政権を担った経験のない民主党に日本のかじ取りを任せても、本当に大丈夫なのか。信用してくれというなら、それなりの根拠、説得力を見せてほしかった。

たとえば、もっとも時間を費やした政策の財源問題。首相は民主党の政策を「無責任なバラマキ」と決めつけ、景気回復後の消費税率アップをうたう自民党の主張を「政治の責任」と胸を張った。「これ以上、私たちの世代の借金を子や孫の代に先送りはできない」という首相の主張は正しい。

ならばなぜ、基礎年金の国庫負担の引き上げで財源に見込んでいた消費増税を見送ったのか。800兆円もの財政赤字を積み上げたのは麻生政権を含む歴代の自民党政権にほかならない。その総括と反省はどうなったのか。

鳩山氏は、4年間は消費税を上げる必要はないと言う。だが、人口の高齢化で社会保障費は猛烈なスピードで膨らむ。さらに、民主党政権ができたとしても、自民党政権がため込んだ膨大な借金は引き継がねばならない。景気対策も手は抜けない。

歳出のムダを排除するだけでとても賄い切れないことは明白だ。鳩山氏は将来の消費税上げはありうると語ったが、もっと率直に負担増を語る勇気を見せるべきだ。

安全保障でも、たとえばインド洋での給油やソマリア沖の海賊対策をめぐって、国際貢献と自衛隊の派遣についてどう考えているのか、鮮明な主張を聞きたかった。

有権者は、こうした大きな視野から両党首が真剣に切り結ぶことを期待している。投票日まであと17日。まだ、機会はある。首相候補にふさわしい論戦力、党首力を磨くよう切に望む。

毎日新聞 2009年08月13日

’09衆院選 党首討論 もどかしさだけが残る

もどかしい1時間半だった。もちろん、12日行われた麻生太郎首相(自民党総裁)と鳩山由紀夫・民主党代表との党首討論のことだ。今月30日の衆院選投票日まで、「次の首相」を争う両氏だけの討論は恐らくこれが最初で最後となる。それだけに消化不良で終わったのは残念だ。

自民党に対する「不満」と民主党に対する「不安」。今回の衆院選は有権者がそのどちらを重視するかの選択だという指摘がある。その意味では不満も不安も解消されなかった討論といえるだろう。

とりわけ精彩がなかったのは鳩山氏だ。基本的には官僚主導でなく政治主導の体制を作る一方、「心の通った政策」を実現するとの従来のメッセージを繰り返したが、麻生首相に対する質問は鋭さを欠いた。

例えば天下り問題だ。最近、駆け込み的に相次いでいる幹部官僚の関係独立行政法人などへの天下りや「渡り」人事をなぜ、首相が止めないのか、鳩山氏はもっと具体的に追及すべきだった。自民党も天下り禁止を表明しているが、本当に実行できるのか疑わせる話だからだ。

一方の麻生首相は周到に質問の準備をした節はうかがわせた。民主党への最大の反撃材料は子ども手当などの財源問題と見ているのだろう。鳩山氏は一般会計・特別会計全体で予算編成を見直し、無駄な支出や不要不急の予算を削減して財源を作る考えを改めて示したが、もう少し具体的に説明しないと今後も守勢に回ることになるだろう。

インド洋での海上自衛隊による給油活動など外交・安全保障政策に関しても、首相が攻勢に転じた形だ。「安保政策に一貫性がない政党に任せられない」という首相に対し、鳩山氏は「給油以上にアフガニスタンの平和に資する政策がある」などと反論したが、これも抽象的だった。

もっとも、もはや野党になったかのように民主党批判を続ける首相もほめられたものではない。前回の衆院選以降、深刻なテーマとなっている格差問題などをどう総括しているか語ることなく、自画自賛のように成果を強調するだけだった。経済成長戦略の重要性をアピールするものの道筋は明確でなかった。

今回の討論は21世紀臨調が主催したものだ。「衆院選は政権と首相を選択する選挙」との流れが定着しつつある中、実質的に「次の首相」を争っている2人だけの討論会は有権者の重要な判断材料となったはずだ。ところが、自民、民主以外の各党への配慮などからテレビの地上波では中継されなかった。これも残念なことで今後に重い課題を残した。

読売新聞 2009年08月18日

6党党首討論 有権者の疑問に率直に答えよ

衆院解散後の長い前哨戦で、各党政権公約をめぐる疑問や注文も明らかになっている。日本記者クラブ主催による公示前の6党党首討論会も、それらを踏まえた展開となった。

双方向の党首討論は「党首力」をみる絶好の機会である。その応答ぶりからは、党首の説明能力や人柄もうかがえる。

麻生首相は、子ども手当など民主党公約の財源のあいまいさを突いた。公明党の太田代表は、民主党の主張する今年度補正予算の「凍結」は、景気回復の芽をつぶすと指摘した。当然の懸念だ。

民主党の鳩山代表の説明は、従来の域を出なかった。民主党は、説得力のある具体的な財源策とともに景気対策の明示が必要だ。

麻生首相は、市場原理主義とは決別すると表明し、小泉構造改革が、さまざまな「格差」をもたらしたことを認めた。小泉路線をどう修正するのか、より分かりやすく説明することが肝要だ。

年金、医療、介護など社会保障の制度改革をめぐって選挙後、与野党協議を行うことに、麻生、鳩山両氏とも、前向きな姿勢を示した。制度設計だけでなく、財源となる消費税の扱いを含め、超党派で協議を進めてもらいたい。

今回の選挙は、自民・公明の連立政権の継続か、民主・社民・国民新の連立政権か、を選ぶ性格をもっている。

その観点からすれば、国家の基本政策にかかわる日米関係や、対中国、北朝鮮などアジア外交、安全保障政策、憲法改正などが論じられなければならない。

鳩山代表は党首討論で、社民党の福島党首から非核三原則を堅持するための法制化を求められて、「検討」を表明した。

鳩山代表は先に、三原則を柔軟に運用するという、今回とは逆の趣旨の発言をしている。

福島党首は、インド洋で給油活動を続ける海上自衛隊の即時撤退を主張し、ソマリア沖の海賊対策への自衛隊活用反対も明言した。いずれも、民主党とは異なる見解である。

野党3党がまとめた衆院選に当たっての共通政策が、外交・安保政策を棚上げにしたのも、こうした相違のためなのだろう。これで安定した連立政権が築けるとは、到底思えない。

衆院選は、18日公示され、いよいよ本格的な選挙戦に入る。各党首は、有権者の疑問に正面から向き合い、率直に答えてほしい。

産経新聞 2009年08月13日

党首討論 国家像をもっと知りたい

麻生太郎首相と鳩山由紀夫・民主党代表との、注目の党首討論が行われた。衆院解散後、二大政党の党首が政権担当能力を競い合う初めての機会となった。30日投票の総選挙は、「首相選び」でもある。

1時間半にわたっての熱心な討議ではあったが、細部にこだわりすぎて議論が浅く、国のありようや将来像についてのビジョンが聞けなかったのは残念だった。

首相は、民主党の政策の多くの疑問点を的確に突いていた。鳩山氏はインド洋での補給活動やソマリア沖の海賊対策をはじめとする安全保障や外交政策、さらには財源問題であいまいさを拭(ぬぐ)いきれなかった。

しかし、解党的出直しを迫られる自民党総裁として、首相は従来の実績を訴えることに力点を置きすぎたのではあるまいか。「この国に責任を持つ」という繰り返しだけでなく、どういう日本にするかを語ってほしかった。

民主党の政策には、経済成長戦略が抜け落ちているとの首相の批判に対し、鳩山氏は子育て支援や高速道路無料化などの家計支援策により可処分所得を増やし、内需を拡大する考え方を示した。

だが、1人当たり年間31万2千円を、中学卒業まで所得制限もつけずに一律支給する子ども手当が、どの程度の経済波及効果を生むのかは示さなかった。少子化対策という意味はあるにしても、果たして自律的な成長を促す戦略といえるだろうか。

読売新聞 2009年08月13日

党首討論 財源と安保の議論を深めよ

有権者が政権を託す先を選択する際の指標とすべきは、やはり政策だ。自民、民主2大政党の党首が直接対峙(たいじ)して論戦を交わしたことで、選挙戦の論点もかなり明確になってきたのではないか。

麻生首相と鳩山民主党代表の党首討論が、民間有識者で作る「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」の主催で行われた。

最も白熱したのは、財源に関する議論だった。

首相は、民主党が政権公約に掲げる「子ども手当」などの財源が明確でないとして、「財源なきバラマキ」と批判した。

鳩山代表は、不要不急な事業の中止などで捻出(ねんしゅつ)できると強調した。しかし、首相が指摘した通り、社会保障費は毎年約1兆円のペースで増え続ける。歳出削減だけで財源を確保できるのかどうか。

一方、鳩山代表も、自民党が「可処分所得を10年で100万円増やす」としていることについて、「(衆院任期の)4年間で何をやるか言ってほしい」と批判した。

首相は、実現に向けた具体的な道筋を示す必要がある。

消費税に関する論議は、首相も鳩山代表も、政権公約の表現より踏み込んだ。

首相は、国内総生産(GDP)の2%成長を前提に、消費税率引き上げを含む税制抜本改革に取り組むことを明言した。鳩山代表も「消費税をいつまでも上げないで済む日本でないことは十分認識している」と述べた。

政権公約を現実的なものとするためにも、財源の裏付けは重要だ。さらに議論を詰めるべきだ。

安全保障政策では、首相が、インド洋での海上自衛隊の給油活動について、鳩山代表の発言が揺れている点を批判した。

鳩山代表は、来年1月の新テロ対策特別措置法の期限切れ後は活動を延長しない考えを改めて表明し、代替策としてアフガニスタンへの民生支援の充実を挙げた。

だが民生支援は、警察改革、多数の学校建設など幅広い分野で既に実施している。単に給油活動から撤収するだけにならないか。

ただ、鳩山代表は「外交や安全保障は、政権を取ったらすべてを変えるという発想は持たない。継続性が重要だ」とも述べた。そうであってほしい。

両党首の一対一の討論は今回限りとなりそうだが、各党党首の公開討論会など様々な機会をとらえて、議論を深めてもらいたい。

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